直木賞候補作家・加藤シゲアキにも影響! 三島由紀夫の異色エンタメ小説『命売ります』がいま読まれる理由とは

加藤シゲアキも刺激を受けたエンタメ小説

 そして書評の中で『命売ります』に刺激を受けたと書いていた加藤シゲアキの小説、たとえば最新刊『オルタネート』もまた。それぞれに孤独を抱えた主人公たちが、自分なりの表現を模索する物語だったりする。

 たとえば主人公の高校生3人は、料理やバンドや読書など、自分なりになにかを表現する。そして彼らはあがく。どうにか、他者と、つながることができないか、と。自分だけのなにかを分かち合える人がいないのだろうか、と。

 『オルタネート』という小説は、マッチングアプリのような便利ツールを利用しながらも、それでも自分の孤独をもてまし、だれかと分かち合う、本当の意味で自分の大切なものを共有し、つながることはできないかと葛藤する高校生の物語だ。……『命売ります』の主人公の面影も、どこかに見えるようなテーマだと思う。

 1968年に綴られた『命売ります』に登場する、自分だけの孤独を抱えつつも、それでも誰かとつながりたい、なにかを分かち合いたい、という登場人物と。2021年に綴られた『オルタネート』に登場する、誰かとつながりたいと渇望しつつも、自分だけの孤独をもてあます登場人物たちは。意外と、どこか重なり合う部分がある。

 おそらく、50年経ったくらいでは、私たちは孤独から逃げられない。それでも、2021年に直木賞候補になるような小説と、1960年代の大衆小説が、同じようなテーマを扱ってるだなんて、人間は変わらないなあ、と苦笑してしまう。

加藤シゲアキによる『命売ります』の書評はこちら:https://www.chikumashobo.co.jp/special/inochi_urimasu/

■書籍情報
『命売ります』(ちくま文庫)
著者:三島由紀夫
出版社:筑摩書房
価格:本体680円+税
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