タオル一丁の安楽椅子探偵が誕生 『探偵はサウナで謎をととのえる』の面白さ

『探偵はサウナで謎をととのえる』の面白さ

 そして本書の主役といっても過言ではないサウナの描写にも、作者のこだわりが垣間見える。作中で2人は様々なサウナに出かけているが、すべて静岡に実在する施設がモデルとなっている。ローカルなサウナ情報が満載で、読むとサウナに行きたくなる一冊だ。ちなみに6セット目(本書ではサウナになぞらえて章がセットと記される)の「サウナ探偵の巡礼」のモデルは、サウナ好きの聖地として知られる「サウナしきじ」。日本一といわれる水風呂を、いつか体験してみたい。

 主人公の龍二はサウナ初心者という設定で、そんな彼が少しずつサウナの世界に足を踏み入れ、その魅力に目覚めていく。当初は苦手意識があったサウナで汗をかく気持ちよさを知り、その次は冷たくて入れなかった水風呂を克服し、やがて「サウナに来たのに水風呂に入らないのは、人生の半分を損している」という境地に至る。そう、サウナとはサウナ・水風呂・休息までがセットになっており、これを繰り返すことで体が“ととのっていく”のだ。竜太郎が語るサウナ施設の紹介やサウナの効能、そして数々の薀蓄にも厚みがあり、サウナ豆知識小説としてもすこぶる面白い。

 物語は竜太郎と龍二を中心に進むが、登場場面の少ない人物も印象に残り、作者のキャラクター作りの上手さに舌を巻いた。警察側にはアイドル好きの部下中山や、学生服を着るのが趣味という望月など濃いメンツが揃っており、彼らのさらなる活躍を期待したくなる。そして物語には直接登場しない娘の江美(龍二にとっては妻)も絶妙な存在感を放ち、竜太郎がたびたび無駄遣いをして龍二が共犯者となり、やがて江美にバレて怒られるというお約束の展開が微笑ましい。

 はじめに「謎は全て解けた」と珍説を繰り広げ、その後サウナに入り、「ととのいました」と鮮やかに事件を解決する。独特のコミカルな作風と、謎解きにおける様式美がクセになり、一度読み始めるとページをめくる指が止まらない。寒さが身に染みる冬の日が続くが、そんな時こそ『探偵はサウナで謎をととのえる』をおすすめしたい。タオル一丁のデッキチェア安楽椅子探偵が次はどんな謎に挑むのか、シリーズ化が待ち遠しい。

■嵯峨景子
1979年、北海道生まれ。フリーライター、書評家。出版文化を中心に取材や調査・執筆を手がける。著書に『氷室冴子とその時代』や『コバルト文庫で辿る少女小説変遷史』、編著に『大人だって読みたい!少女小説ガイド』など。Twitter:@k_saga

■書籍情報
探偵はサウナで謎をととのえる(富士見L文庫)
著者:吉岡梅
イラスト:しわすだ
出版社:KADOKAWA
出版社サイト

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