九龍ジョーが語る、伝統芸能の“革新性” 「そもそも歌舞伎は、他ジャンルの要素を貪欲に取り入れてきた」

九龍ジョーが語る、伝統芸能の“革新性”

ポップカルチャーと伝統芸能

――本書は伝統芸能とポップカルチャーの関わりについても考えさせられます。例えば、今年高視聴率を獲得した『半沢直樹』で、歌舞伎の魅力に気が付いた人もたくさんいるんじゃないでしょうか。

九龍:あのドラマは歌舞伎役者のポテンシャルを広く知らしめましたよね。並の役者だったらコントみたいになりかねないものが、笑いもシリアスもぜんぶ包み込んで様になる。今月(2020年12月)の歌舞伎座は、第一部が尾上松也さんと片岡愛之助さんの舞踊、二部には市川中車(香川照之)さん、三部には市川猿之助さんが出演しています。『半沢直樹』役者がフル稼働ですよ(笑)。中車さんなんて台詞に半沢ネタを散りばめてて、それだけでたくさん笑いが起きていました。歌舞伎って流行りものを取り入れるのが基本ですから、これでいいんです。

――あのドラマは制作陣も歌舞伎を意識していますよね。

九龍:「スーツ歌舞伎」なんて言われ方もしていましたからね。演出の福澤克雄さんは以前から伝統芸能の人間を起用するのが上手いんです。映画『七つの会議』は主人公が狂言師の野村萬斎さんなんですけど、周りのキャストは『半沢直樹』と被るので、半沢好きにも大変オススメです。大事なのは、伝統芸能と現代の企業ものドラマとのギャップではないということです。むしろ歌舞伎が描いてきた構図や人物造形が、企業ものドラマにハマるんです。

――九龍さんは、ずっとポップカルチャーについて書かれてきた方ですが、本書を読むと現代ポップカルチャーのいたるところに伝統芸能の影響があるのがよくわかりますね。

九龍:近年は漫画『ONE PIECE』を歌舞伎にした『スーパー歌舞伎Ⅱ ワンピース』などもありますが、もともと『ONE PIECE』には講談や浪曲が描いてきた任侠ものの世界観がベースにあるんですね。『鬼滅の刃』も、歌舞伎には「頼光四天王」という鬼退治の定番ジャンルがあります。『鬼滅の刃』には鼓を打つ鬼なんかも出てきますよね。先日、『鬼滅の刃』のキャラクターが歌舞伎俳優に扮するコラボ展を京都南座でやっていて、僕も図録に原稿を寄せました。

 ジャンプ作品はこれまで『ONE PIECE』と『NARUTO』が歌舞伎化されています。この先、『鬼滅の刃』の歌舞伎化もじゅうぶんあり得るんじゃないでしょうか。下手に実写化するぐらいなら歌舞伎のほうがいい、という声もよく聞きます。

――人気作品が歌舞伎に上手くハマるのは、そもそも日本人が好きなものに歌舞伎的要素が多いということなんでしょうか。

九龍:それもありますが、歌舞伎には引き出しが多いんです。例えば、『スーパー歌舞伎Ⅱ ワンピース』の海上での戦闘シーンは源平合戦の壇ノ浦の戦いなんかが参照されていて、白ひげというキャラクターに平家の武将である平知盛が重ねてあります。安っぽいCGでやるより、アナログの歌舞伎の型で表現したほうがハマることもあるんです。『NARUTO』、『風の谷のナウシカ』、『スターウォーズ』といった誰もが知るタイトルが、原作ファンをがっかりさせることなく次々と歌舞伎化されています。「歌舞伎化」というワードに信頼感が生まれていて、それが鬼滅歌舞伎の待望論にも繋がっている。

 そもそも歌舞伎は、昔から能狂言や人形浄瑠璃、講談、落語など他ジャンルのよさげな要素を貪欲に取り入れてきた芸能なので、いまのこの状況はとても健全だと思います。

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