人類はチーズケーキで滅亡する? SF作家たちが考える“人類滅亡のトリガー”とは

SF作家が「人類滅亡」のトリガーを提言

 高山は、愛は人類にとっての脆弱性ではないかと言う。愛国や愛社など、愛は時に権力者などから強要され、利用される、それは人間が生きていく上でのバグのような感情であり、そのバグによって人類に致命的なエラーが出るのではないかと考えているようだ。

 一方、藤井にとっての愛とは、動物としての人間の象徴だと言う。人間は結局動物であり、その本質は猿と変わらないので動物としての限界を超えられないだろうと藤井は主張する。そして、現在も発展し続けるコンピュータの思考は人間と真逆で、肉体的な感覚と脳の乖離が進行しており、その乖離に人が耐えられなくなった時に大きな出来事が起こるのではないかと言う。

 高山と藤井の愛の捉え方は、愛が動物的なものであるのか、文化的なものであるかで異なると言える。それは、人間を生物学的な存在と捉えるか、文化的な存在と捉えるかの違いとも言えるかもしれない。新井は、ケン・リュウの言うポストヒューマンは人間に含めてはいけないのかという疑問を提示したが、人間を動物的に捉えるか否かという議論は、例えば、データだけの存在になった者は人間と言えるのかどうかなど、人間の定義を巡る広範な議論を呼び起こすだろう。こうした、前提条件や定義にこだわる議論が本番組では活発になされたが、とてもSF作家らしいものの考え方だ。

 韓国の新鋭SF作家キム・チョヨプは、人類は目や耳では知覚できない感覚外の要因でゆっくりと滅亡していくのではないかと語った。キムはコロナを例にとって、人は24時間緊張状態ではいられず、必ず油断する瞬間がある、明確に知覚できるものに対しては人間が警戒できるが、ウイルスのような目に見えず耳で聞くこともできないものに人類は必ず油断してしまうのだと説明してくれた。

 まさに今、世界はコロナウイルスという目に見えないものと相対している。ある人は「コロナは怖くない、風邪のようなものだ」と語り、別の人はコロナは恐ろしいものだと主張する。キムの回答は、コロナ禍をリアルタイムに経験している我々にとっても貴重な示唆を与えてくれるものだった。

 最後の発表となった新井は、「人類は滅亡しない」と力強く発表した。動物としての人類は世界各地に生存しており、これほど広範に生息している動物は他にはおらず、種としての人類はあらゆる環境に適応してしぶとく生き残るのではないかという考えのようだ。

 確かに人間は熱帯の赤道直下にも極寒の北国にも生存している。南極にすら人がいるし、宇宙にだって進出している。あらゆる環境で最適化している人間を見ていると、地球の一部が住めなくなったとしても、別の地域ではなんとか生き延びているかもしれない。新井のこの力強く希望を感じさせる人間観は、コロナ禍だからこそ心に響くものがある。

 今、世界は未曾有の危機の真っ只中にいて、遠い未来を考える余裕を失っているように思える。この番組は、そんな時だからこそSFの想像力によって大きなビジョンを持つことが重要だと訴えている。日本と世界のSF作家たちの言葉は、目の前のことに汲々としている今の我々の目を見開かせてくれる力強さに溢れていた。

 番組は、YouTubeチャンネル「8.8チャンネル」でも配信されている(無料)。番組本編の他、未収録の「地球滅亡の日に食べるなら、ご飯か麺か?」のお題に対する回答や、番組終盤に提供された宮崎夏次系の漫画、さらに司会のいとうせいこうと番組顧問の大森望のアフタートークも見ることができる。

第2回『世界SF作家会議』 #1

■杉本穂高
神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人。ブログ:「Film Goes With Net」書いてます。他ハフィントン・ポストなどでも映画評を執筆中。

【番組概要】
第2回『世界SF作家会議』 “人類は〇〇で滅亡する”
オリジナル全長版 YouTube 「8.8チャンネル」で配信
URL: https://www.youtube.com/channel/UC6tqmjWZpM2UFfG6QBdl1aQ

■番組スタッフ
企画:黒木彰一(フジテレビ)
プロデュース:下川 猛(フジテレビ)
構成:竹村武司
演出:村尾輝忠
ディレクター:温井精一(フジテレビ)
プロデューサー:渡辺 資
制作補:濱田 舞、平山日菜子、古川 周(フジテレビ)
技術:フラッグ
協力:早川書房、小松左京ライブラリ
編成:枝根聡樹(フジテレビ)

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