『チーズはどこへ消えた?』『ハリポタ』『バトル・ロワイアル』……20年前のベストセラー、何が読まれていた?

20年前のランキングから見えてくる今

宗教は強い

 池田大作と大川隆法の本が20年前も今もトップ5以内に入っていることがまず目に入る。宗教団体の固定票の基盤があると強い(ちなみに『光に向かって100の花束』は浄土真宗親鸞会会長の本である)。

タレント本枠は2001年は飯島愛、2020年は田中みな実

『プラトニック・セックス』
『プラトニック・セックス』

 タレント本のトップは2020年は田中みな実の写真集だったが、2001年は故・飯島愛の自伝『プラトニック・セックス』だった。男女どちらからも人気な女性は変わらず強い。

ネトウヨ枠(?)は20年前からあった

 2001年には『市販本 新しい歴史教科書』、2020年には『反日種族主義 日韓危機の根源』がトップ20に入っているが、右派的なイデオロギーに基づく歴史本は20年前からあったことがわかる。ただ当時は戦後の左派が何かと「日本はダメだ」と捉える「自虐史観」を蔓延させてきたことへのカウンターとして「自国に自尊心を持てる歴史を」というのが「新しい歴史教科書をつくる会」の運動だったはずで、そこでは共産主義に対する反発からの中国共産党批判はあっても、中国人・韓国人に対する露骨なレイシズムはそれほどでもなかった印象がある。ところが今ではむしろそちらがメインになっていると言っても過言ではない。

ビジネス書が目立つ一方、子ども・教育本や女性向け実用書は弱い

 2001年ランキングではビジネス書は目立つが、2020年のように子ども・教育関連本の存在感は薄い。また、2020年には女性向けに手軽さを謳ったダイエット本やレシピ本が入っていたが、2001年にはトップ20にはない。共働きが増えたからか、大人の男性が本を買わなくなったのかは不明だが、子どもや女性向けの本が今では出版市場で目立つようになっていると言える。

『チーズはどこへ消えた?』
『チーズはどこへ消えた?』

 1位の『チーズはどこへ消えた?』は寓話仕立ての薄い翻訳ビジネス書として当時斬新だったもので、今も毎年増刷しているロングセラーになっている。ビジネス書のタイトルはこのころ『金持ち父さん 貧乏父さん』『話を聞かない男、地図が読めない女』のように対比で付けるのが流行っていたが、2020年ベストセラーを見るとタイトルに「9割」「100レシピ」「10の」と数字が入っていてより具体感を演出している。

 中身で言うと『金持ち父さん 貧乏父さん』は筑摩書房から出ているが、不労所得を増やさないと貧乏父さん状態から抜け出せないと説き、その方法として不動産投資とネットワークビジネスを薦めるもので、この本自体では別に問題はなかったが、これをネタにネットワークビジネス(というかマルチ商法)の勧誘をする輩が横行した。それに比べると『FACTFULNESS』が売れた2019~20年のほうがまともな世の中になった気はする。そもそも稼ぎ頭が「父さん」という前提自体が前時代的だ(原題からして"ich Dad Poor Dad"なので邦題のせいではない)。

『ハリポタ』と『バトロワ』が変えたもの

 2001年のコンテンツでは『ハリポタ』『遊戯王』『FF10』『バトルロワイヤル』が強い。なかでも歴史的に見て重要なのは『ハリポタ』と『バトロワ』だ。

 1999年末に第1巻の邦訳が発売された『ハリポタ』は、当時増加傾向にあった小中学校での「朝の読書」運動と結びついて、90年代まで進行していた「子どもの本離れ」を食い止め、2000年代に児童書市場をV字回復させることに貢献した。

 90年代の児童書市場では「ミニ絵本」と呼ばれる500円以下の単価の安い本を流行させた結果、冊数は伸びたが売上・利益は下がるというデフレ状態にあったが、『ハリポタ』とそれに続く海外ファンタジーブームは分厚い翻訳書ということで単価も高かったがシリーズで飛ぶように売れ、児童書市場がデフレスパイラルから脱出することにも寄与している。

 2020年に子ども・教育関係の本が多くなっているのも、21世紀に始まった児童書市場の復調と、それと並行する子育て・教育に関する意識の高まりとは無縁ではないだろう。

『バトル・ロワイアル』
『バトル・ロワイアル』

 もうひとつ、高見広春による『バトロワ』。これは2001年デビューの山田悠介と並んでデスゲーム、サバイバルもの小説の潮流をつくった立役者である。デスゲームものの代表的な作品として10年以上君臨するモバゲータウン発の『王様ゲーム』が書籍化されたのは2009年だから、『バトロワ』は圧倒的に早かった。

 2010年代に入ると小学生向けの児童文庫でさえデスゲームもの――と言っても児童文庫の作品では人は死なない――の人気作がいくつも誕生し、ジャンルとして定着していくが、2001年当時は『バトロワ』の「クラスメイト同士が殺し合う」という設定は物議を醸すものだった。閉鎖空間に放り込まれ、ルールのあるゲームとしてお互いを殺し合う、または排除する人間を選んでいくことを強制される話を日本の子ども(小中高校生)は好む、ということがこのころ発見されたわけだ。

 『ハリポタ』は、異世界転生・転移ものを生むきっかけのひとつを作った『ゼロの使い魔』や、小説家になろうに多くの人が注目するきっかけとなった『魔法科高校の劣等生』にも影響を与えている。『ハリポタ』と『バトロワ』が作り出した流れは今に至るまで続いている。2001年はそういう時代だった。

■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。

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