『涼宮ハルヒの直観』なぜ“本格ミステリ”な作風に? 17年続く人気シリーズの文脈を紐解く

『涼宮ハルヒ』なぜ“本格ミステリ”な作風に?

むしろ2010年代以降の本格ミステリの文脈を踏まえた作品

 ミステリー的なラノベ/ラノベ的なミステリーは2010年代以降は「ライト文芸」ジャンルで華開いていくことになる。

 また、いわゆるライト文芸ではなく「ミステリー作家」とみなされている者でも、デビュー前にラノベに投稿していた書き手がミステリーランキング常連になっている。

 たとえば北村薫らが開拓・普及させた「日常の謎」(日常空間で起こる事件を描いた、人が死なないミステリー)ものを手がける相沢沙呼はラノベ新人賞に投稿していたし、2017年に刊行されて各種ミステリーランキングを総なめした『屍人荘の殺人』の今村昌弘は電撃大賞に投稿していた。

 むしろ「最近のラノベ」よりもこれらの作家(や先に名前を挙げた米澤穂信)と並べたほうが『直観』の位置づけはしっくりくる。

 『直観』、なかでも「鶴屋さんの挑戦」で試みられていることは、「超常現象が存在する世界での本格ミステリ」であり、かつ、その中で「後期クイーン問題をいかにクリアするか」である。

 これをちゃんと書くとあと5000字くらい必要なうえネタバレ不可避なので深入りしないが、これらの問題は2010年代の本格ミステリが取り組んできたことだ。

 とくに前者の「超常現象アリの世界での本格」は一種の潮流と言っていいほど作品が書かれており、その中でもっとも評価が高いもののひとつがたとえばゾンビのいる世界での殺人事件を描いた『屍人荘』であり、ファンタジー世界での殺人事件を描いた米澤の2010年作『折れた竜骨』だった。

 『ハルヒ』は9年間新刊は出なかったが、しかし、谷川流がこの10年(正確に言えばこの四半世紀)の本格ミステリを読んだうえで書いた作品だということが非常によくわかるのが『涼宮ハルヒの直観』だった。

■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。

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