渡辺祐が振り返る、スワローズ・ファンとして体験した“史上最高の日本シリーズ” 『詰むや、詰まざるや』レビュー

渡辺祐『詰むや、詰まざるや』レビュー

森チルドレン、野村チルドレンの現在

 『詰むや、詰まざるや』のタイトルが象徴するように、この日本シリーズは、選手同士がぶつかりあうと同時に監督同士の「戦術戦」。すべてのネジをきっちり締め直していくような緻密な森野球と、データを駆使して攻めどころ泣きどころを計算しながらも、若いチームの勢いに賭ける野村野球。知将対決と言われながら似て非なる二人の戦術は、事前の監督会議からはじまって14戦のあちこちでシーンを演出する。野球は、試合の前はもちろん、試合の間にも「考える瞬間」が与えられていることが本当に面白い。そのことを思い出させてくれるのも本書の魅力だろう。

 本の中でも紹介されているが、93年当時、盛り上がるサッカー・ブームに対して「作戦はあるんだろうが、(心理戦などで)裏をかくことがない。全く興味なし」と言い放った野村さんが「サッカーとは違うだろ」とニンマリする顔が浮かぶようだ。

 そして、本書は、最終章で登場人物たちの2020年=「いま」にフォーカスする。もうおわかりのこと思うが、野村克也さんは、本書の刊行を待たずしてこの世を去った。だが、ここに登場する主力選手のほとんどが現在でも監督・コーチなどの立場で野球を生きていることをあらためて思い出させてくれる。

 森チルドレン、野村チルドレンは、現在の野球界にとって大きい存在だ。人に歴史あり、そして「仕事」に歴史あり。読了して、森、野村両監督の野球を同時代で見られたことのありがたさにあらためて思いを馳せております。

■渡辺祐(わたなべたすく)
エディター/ラジオ・パーソナリティー
1959年神奈川県出身。自称「街の陽気な編集者」。FM局J-WAVEの土曜午前の番組『Radio DONUTS』ではナヴィゲーターも務めている。

■書籍情報
『詰むや、詰まざるや 森・西武 vs 野村・ヤクルトの2年間』
長谷川晶一 著
出版社:インプレス
公式サイト

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