『キノの旅』が20年間、愛され続けてきた理由とは? ライトノベル週間ランキング

『キノの旅』が愛され続けてきた理由とは?

 「投票の国」で第1位に輝いたのは、『Best Selection II』に収録「優しい国」―Tomorrow Never Comes.―というエピソードだ。他の旅人から聞く評判が最悪だった国に敢えて入ったキノとエルメスは、歓待を受けて誰からも優しい言葉をかけられる。気持ち良く過ごして3日目に出国したキノとエルメスが知ったある事情。そして起こった出来事。抱く心情は当然だという冷淡か、仕方がないという諦念か、どうにかしてやりたかったという博愛か。心の在り方を問われる内容。読んで自分はどう感じるかを確かめたい。

 『キノの旅』についてあと1点触れるなら、2003年と2017年にテレビアニメ化されていて、そのうちの2003年版は、カルト的な人気を持つアニメ『serial experiments lain』の中村隆太郎監督が手がけている。『Best Selection II』に収録の「人を喰った話」―I Want to Live.―も、雪で立ち往生し、飢えていたトラックの乗員たちに、キノがうさぎを狩って食べさせる展開の裏で、おぞましい事態が起こっていたことが、緊張感を漂わせる映像で描かれる。必見で必読のエピソードだ。

 ライトノベル週間ランキングでは、1位が川原礫による世界的に人気の『SAO』シリーズ最新刊『ソードアート・オンライン24 ユナイタル・リングⅣ』(電撃文庫)で、2位がこちらも人気の鴨志田一による『青ブタ』シリーズ最新刊『青春ブタ野郎はナインゲールの夢を見ない』(電撃文庫)。いずれも安定した人気が続いている。3位は9年半ぶりとなった谷川流のシリーズ最新刊『涼宮ハルヒの直観』(スニーカー文庫)。注目作品では、アニメ化が決まっているしめさば『ひげを剃る。そして女子高生を拾う。 each stories 5』(スニーカー文庫)が23位に。家出中の女子高生とサラリーマンとの関係を描いたシリーズから登場する初の短編集だ。

■タニグチリウイチ
愛知県生まれ、書評家・ライター。ライトノベルを中心に『SFマガジン』『ミステリマガジン』で書評を執筆、本の雑誌社『おすすめ文庫王国』でもライトノベルのベスト10を紹介。文庫解説では越谷オサム『いとみち』3部作をすべて担当。小学館の『漫画家本』シリーズに細野不二彦、一ノ関圭、小山ゆうらの作品評を執筆。2019年3月まで勤務していた新聞社ではアニメやゲームの記事を良く手がけ、退職後もアニメや映画の監督インタビュー、エンタメ系イベントのリポートなどを各所に執筆。

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