『鬼滅の刃』少女マンガ的な魅力とは? 炭治郎と禰豆子の兄妹関係に好感を抱くワケ

少女マンガ解説者が読む『鬼滅の刃』

③スポ根もの

 鍛錬を繰り返し、奇抜な訓練を受けるところなどはモロスポ根ものって感じですが、もうひとつ大きなスポ根要素があります。

 登場するキャラたちは、みな切なく苦しい体験をしています。でもそこで鬼になった人たちと、鬼殺隊に入った人たちには、大きな違いがありました。鬼になったのは人間に痛い目に遭わされた人たち。鬼殺隊に入ったのは鬼に痛い目に遭わされた人たち。炭治郎も禰豆子も、家族がとても仲がよく愛情深かったから人間への愛着を失わずに踏ん張れたと言えそうです。そしてもうひとつ、鬼になったのは「自分の弱さに負けた」人たちでした。

 スポーツに真剣に取り組んでいると、必ず自分と向きあうときが来ます。練習が辛くてサボるのか、体力の限界と思い力を弱めるのか。イライラしたり焦ったりして冷静な判断を欠き、試合で本領発揮できないこともあります。試合に負けて、自分の未熟な部分が露呈するのも辛いし、苦手を克服するためにできないことに取り組むのもまた辛抱です。炭治郎も言ってましたが、少し成長したと思うと、またその先に高い山が見えてくる。未来に勝利を得るために弱さと向きあわなければいけません。

 魘夢も最後に「アイツだ!! アイツのせいだ!!」「あのガキが悪い……!!」と、めっちゃ人のせいにしていましたね。弱い。「精神的な強さ・弱さ」をとても重視しているところが、すごくスポ根らしい良さがあると思うんです。

④禰豆子の太ももと蜜璃ちゃんの胸元

 炭治郎の背負ってる籠からボカッと出てくる禰豆子の太ももがめっちゃ萌えです。蜜璃ちゃんの胸元にもいつもハラハラさせられます。「どう考えてもこれは具が出ちゃってるのでは」と思いながら見ています。でも決して彼女たちは、お色気で男の気を惹こうとはしないんですよね。蜜璃ちゃんなんかあんなに恋愛体質なのにも関わらず、です。

 蜜璃ちゃんが胸の大きく開いた隊服を着せられているのは、そういう隊服を与えられたからで、拒否できることを思いつかなかったからのよう。それって長年女子達が「なんかブルマーって不便だし恥ずかしいしやだな」と思いながら「でも決まりだから」と着用していたのと似ています。禰豆子も蜜璃ちゃんも、なんか無防備なところがすごくリアルな女の子っぽくて好感が持てるんです。

 こうして「好きな点」をあげてみると、鬼滅には「いやだと思う要素」がほとんどないことに気付きます。炭治郎が威張って弟妹を見下すような長男だったら、1巻で読むのをやめたでしょう。無惨さまが醜い姿だったら、目にするのも不愉快で「鬼殺隊がんばれ、以上」だったでしょう。鬼成敗が単なる悪者いじめだったり、柱が才能だけで努力もしない人たちだったら、3巻で読むのをやめたでしょう。女性キャラが男性に媚びたり、お色気を振りまいたり、意志のない男性のチアガールみたいな役割だったら、5巻で読むのをやめたでしょう。

 もちろん、禰豆子の爆血がご都合っぽいなーと思ったりするので、まったく文句なく完璧と思っているわけではありません。だた、圧倒的に「不愉快」なことが起こらないのが、鬼滅のすごくいいなと思うところです。

■和久井香菜子(わくい・かなこ)
少女マンガ解説、ライター、編集。大学卒論で「少女漫画の女性像」を執筆し、マンガ研究のおもしろさを知る。東京マンガレビュアーズレビュアー。視覚障害者による文字起こしサービスや監修を行う合同会社ブラインドライターズ(http://blindwriters.co.jp/)代表。

■書籍情報

『鬼滅の刃』既刊22巻(最終巻である23巻が12月4日に発売される)
著者:吾峠呼世晴
出版社:集英社
価格:各440円(税別)
公式ポータルサイト:https://kimetsu.com/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「漫画」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる