学園ラブコメ×ホームドラマ×異能バトル?  ジャンプ注目のスパイ漫画『夜桜さんちの大作戦』の魅力

ポップ×異常性『夜桜さんちの大作戦』

 上記の作品は、美少女ゲームの影響下にある学園ミステリーの中に精神を病んだ美少女のキャラクターが次々と登場するという文学性とオタク的消費がセットで展開されていたことが、当時はとても先鋭的だった。

 『夜桜さんちの大作戦』も夜桜家の兄妹を筆頭とする個性的なキャラクターが続々と登場するショーケース的な作りとなっており、オタク系作品のヒットパターンを踏襲しているように見える。しかし、シチュエーションや設定の派手さに反し、太陽と六美を中心としたキャラクターの描写は妙に淡々としている。次々と美男、美女が登場するわりにはお色気要素が薄いのも大きな特徴だ。その辺りのストイックな作風は、今のジャンプ漫画特有のものだと感じる。

 両親の事故死によって「大事なものは無くして初めて気付くこと」と「大事なものなんて簡単に無くなってしまうこと」を知った太陽は、大事な人と絆を深めても「また無くしてしまうんじゃないか」という恐怖を抱えている。大切な人を失う恐れが太陽の核となっており、だからこそ彼は、六美を守ろうとする。

 第3巻で描かれた、黒百合党の政治家・黒百合義正と太陽の戦いは、現時点では一番シリアスなエピソードだ。殺された娘の復讐を果たすために白鷺副総理を殺そうとした黒百合の姿を見た太陽は「もし俺の家族を奪った相手が目の前にいたら」「同じことをしたかも」という思いが一瞬頭によぎる。「人を殺そうとする奴の気持ちに」「共感してた…!」と太陽は語り、それ以降、物語は太陽の両親の死の真相を巡って動き出す。

 「喪失の恐怖」や「復讐」といった少年漫画で展開するには重すぎるテーマに本作がどのように切り込むのか、とても楽しみである。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■書籍情報
『夜桜さんちの大作戦』
著者:権平ひつじ
出版社:集英社
出版社公式サイト

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