新大久保はなぜコリアンタウンになった? 暮らし始めて見えた、多文化共生の難しさ『ルポ新大久保』レビュー

新大久保から学ぶ多文化共生への道とは?

 本書に登場する外国人たちは「日本でたくましく生きる外国人」ばかりではなく、日本で暮らす中で様々な助けを必要としている人々もいる。日本人は共に「ジモト」で暮らしながらも彼ら“よそもの”に距離を置くか、はたまた観光地というショーケース越しにしか彼らを見てはいなかったのではないかと思えてくる。

「まずは顔を合わせることから」

 新大久保に住む日本人と外国人との間で登場するこの言葉は、どこかもどかしい。

 韓国人がベトナム人の若者向けにフリーペーパーを発行したり、タイのお弁当屋さんにベトナム人が通う。様々な国の人々の生活が日常で交わり続けている中で、日本人はまだ同じ席に座れていないような印象を受ける。

 新大久保商店街で行われている日本、韓国、ネパール、ベトナムの事業主からなる「インターナショナル事業者交流会」、通称4カ国会議に参加した外国人は「なにかを主催する、決めていく場に外国人が入ってくるって、おおげさかもしれないけど、エポックメイキングな出来事だったように思うんです」と語る。街の中で4割近い人数を占める外国人であるにもかかわらずそれまで街の意思決定の場にはいなかったことからの言葉だ。

 また大久保図書館職員の「日本人と外国人とでは共通の土台がいくらか少ないでしょう」という言葉にも、「ジモト同士」の土台でダメなのかというもどかしさを感じる。入れ替わりの激しい外国の住民たちと日本人との地道な共生への道は、新型コロナによってどうなるのだろうか。本書は新型コロナの感染拡大で国の支援策から置き去りにされる外国人たちまでも追う。

 高度経済成長、バブル、政治的緊張や政局、東日本大震災、新型コロナの感染拡大など外的要因によって大きな変化を繰り返して今に至る新大久保は、日本人と外国人との共生への道をいまだ手探りの中歩み続けている。『ルポ新大久保』は変わりつつある日本社会の少し先を見せてくれるのだ。

■すずきたけし
ライター。ウェブマガジン『あさひてらす』で小説《16の書店主たちのはなし》。『偉人たちの温泉通信簿』挿画、『旅する本の雑誌』(本の雑誌社)『夢の本屋ガイド』(朝日出版)に寄稿。 元書店員。

■書籍情報
『ルポ新大久保』
著者:室橋裕和
出版社:辰巳出版
出版社サイト
Amazon

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