たんぽぽ・川村エミコ、初エッセイ『わたしもかわいく生まれたかったな』に込められた切ない想い

たんぽぽ・川村、初エッセイは純文学のよう

 繊細さは、子どもとして生きていく上で、時に大きな重りとなって自身を苦しめる。川村は、そういった意味で「子どもが向いていない人」だ。人が何気なく放った一言で深く傷つき、傷が癒えるまでに長い時間を要する。

 幼稚園に上がって少しした頃、父親にこんなことを言われる。「えみちゃん!えみちゃんはあまり綺麗なほうじゃないです。なので、字は綺麗な方がいいから、書道を習いましょう。」。

綺麗とか綺麗じゃないとか、かわいいとかかわいくないとか、かわいい従姉妹のみほちゃんがいたので薄々、いや割と濃いめで気付いてはいましたが、今思えばこれが初めてダイレクトに感じた瞬間でした。自分がかわいいかどうか、ちゃんと向き合う瞬間でした。

 産まれてたった何年かしか経ってない女の子が、父親から「綺麗じゃない」と言われた。それも何気ないことのようにサラッと。川村本人も「サラッと」書いてはいるが、幼心にどれだけ傷ついたのかは想像に難くない。「わたしもかわいく生まれたかったな」。彼女がこのタイトルに込めた意味を考えると、胸の奥からいろいろなものがこみあげてくる。

 川村は最後の章で「恋がしたい」という思いを15ページにも渡って綴っている。告ってないのに振られる。男性にメールを送っても返信がない。自分から好きになった人と付き合ったことがない。ステキな人はたくさんいるが好きまでいかない。読みながらずっと、彼女がステキな人とお付き合いできたらいいなあとしみじみ感じていた。恋がしたいと願う彼女の姿は、ひとりの女性としてとてもかわいらしいと思った。

書き終えてみると、幼少期からの経験全てが今の私を作ってくれていて、繋がっていて、私の大事な部分であることがわかりました。

そして、最後小さな私がいつも見守ってくれている気持ちになりました。「大丈夫?大丈夫だよ。大丈夫。」って。なぜでしょう。涙が出てきます。

 小さなあの子と一緒に語りかける。大丈夫だよ。大丈夫。

■ふじこ
兼業ライター。小説、ノンフィクション、サブカル本を中心に月に十数冊の本を読む。週末はもっぱら読書をするか芸人さんの配信アーカイブを見て過ごす。Twitter:@245pro

■書籍情報
『わたしもかわいく生まれたかったな』
著者:川村エミコ
出版社:集英社
出版社サイト(試し読みあり)

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