アニメの“作画崩壊”はなぜ起こる? 『罪の声』作者が描くアニメ業界の現在地

『罪の声』作者が描くアニメ業界の現在地

 子供の頃からの夢を実現させたい。好きな絵を描く仕事で食べていきたい。そんな思いを取り込んで、ぎりぎり成立していたアニメビジネスが、クリエイターの離反や悪評に対する厳しい視線、制作過多によるクオリティの低下、細る資金といった問題によって破綻していく様には、夢を形にして売る仕事内容とは正反対の闇が漂う。

 渡瀬の上司が、オタク的な感覚は市場を狭めると忌避して万人受けする企画を立て、成功させてきた姿にこそ、ビジネスとしての正しさがあるのかもと思いたくなる。

 好きだという魂を欠いたクリエイティブから人を感動させるものが生まれるのか。先のエピソードで挫折した渡瀬、諦めた文月が、それでも抱える夢を抱き続けた先に歓喜の声が上がり、喜悦の涙が流れるのか。それは読んでのお楽しみとして、ひとつ言えるのは、『デルタの羊』はアニメ業界にありえる話が満載で、オタク心もしっかりつかむ、アニメファン必読の物語ということだ。ビジネスでも学業でも人生という大きな枠でも、前を向き続ける意義を教えてくれる物語でもある。

 アニメ業界ものは、『SHIROBAKO』などのアニメ作品以外にも、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』に原画で参加した経験を持つ漫画家の花村ヤソが、自分のアニメーター時代を元に描いた漫画『アニメタ!』がある。やはりアニメーター経験を持つ石田敦子『アニメがお仕事!』、宮尾岳『二度目の人生アニメーター』といった漫画作品、辻村深月による小説『ハケンアニメ!』などもあって、読むと大変さとは裏表のアニメのお仕事が持つ魅力に触れられる。ご覧あれ。

■タニグチリウイチ
愛知県生まれ、書評家・ライター。ライトノベルを中心に『SFマガジン』『ミステリマガジン』で書評を執筆、本の雑誌社『おすすめ文庫王国』でもライトノベルのベスト10を紹介。文庫解説では越谷オサム『いとみち』3部作をすべて担当。小学館の『漫画家本』シリーズに細野不二彦、一ノ関圭、小山ゆうらの作品評を執筆。2019年3月まで勤務していた新聞社ではアニメやゲームの記事を良く手がけ、退職後もアニメや映画の監督インタビュー、エンタメ系イベントのリポートなどを各所に執筆。

■書籍情報
『デルタの羊』
著者:塩田武士
出版社:KADOKAWA
発売日:2020年10月7日
価格:本体1,700円+税
出版社サイト

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