各マンガ賞に続々ノミネート、田島列島『水は海に向かって流れる』完結へ 悲劇にユーモアで向き合う作風を読む

『水は海に向かって流れる』魅力とは?

 最後に、田島作品のファンに是非ともオススメしたい作品がいくつかある。一つは、先日公開されて話題を呼んだ映画『ブックスマート 卒業前夜のパーティデビュー』。

 同作は、同性愛者のエイミーとその親友であるモリーという二人のガリ勉女子高校生が、卒業前に高校生活をエンジョイしようと卒業パーティに乗り込む、というストーリー。本作が田島作品のファンに受け入れられるのではないかと思う要素はいくつかあるのだが、大きなところでは「個性豊かなキャラクターたちを愛を持って描いている点」に両者の通じる部分を感じる。

 例えば、本作の主人公であるエイミーの、「物語が始まった時点で主人公が同性愛者だと周囲にカミングアウトしており、周囲もそれを受け入れている。そして、劇中で彼女が同性愛者であること自体を問題として取り上げない」という点は「新鮮だ」と多くの観客に支持された点だと思うが、田島作品もこれに通じる部分は多いと思う(一例として、前述の『子供はわかってあげない』でも、主人公の兄と周囲の人物の対応などに近しいものが感じられる)。どちらかというと穏やかな作風の田島作品に対して、「ブックスマート」は非常に軽快なテンポで進行する作品なので、そこだけは好みが別れる点かもしれないが、きっと両作品のファンならそれぞれを楽しめるのではないだろうか。

 もう一つオススメしたいのは、木皿泉脚本のドラマ『すいか』だ。こちらは「個性豊かな住人が住むシェアハウス」という舞台設定もさることながら、随所に見られるユーモアや、少し変わった人たちを愛を持って描く点などが近いので、もし興味のある人は、こちらもぜひ見てみて欲しい(なお、同作は河出書房からシナリオも刊行されている)。

 また、本作に対して「現代版『めぞん一刻』」と評する声も散見されるので、こちらも当然オススメだ。

 田島は非常に寡作な作家なので、新作の発表がいつになるかわからないが、きっとまた素晴らしい作品を届けてくれるだろうという期待感がある。それまでは、田島作品を何度も読み返し、他作品も楽しみながら、首を長くして、のんびり待つのが良いだろう。

■T
映画/漫画好きのフリーライター

■書籍情報
『水は海に向かって流れる』(KCデラックス)3巻完結
著者:田島列島
出版社:講談社
価格:各・本体620円(税別)
https://kc.kodansha.co.jp/product?item=0000344116

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