突然、祖父がペンギンになった……? 不思議なサスペンス『人鳥クインテット』の凄み

もし祖父が突然、ペンギンになったら?

 そして柊也は冒頭の引用にあるように、ある事件に対して容疑をかけられ警察で取り調べを受ける。そこでの刑事とのやり取りに、さらに先ほどの著者のバランサーとしての腕の確かさがよく現れている。

 柊也の葛藤と、まだこれから長く生き続けなければならないという漠然とした不安が、取り調べる老刑事の視点により鮮明に立ち現れて、先が短いかもしれない祖父との対比が残酷にも描写される。

 取り調べの最中に出てくる、柊也のセリフ「退化ではなく進化」という言葉は、かつて人間だった祖父の佇まいを感じて、くっきりと輪郭を持って浮かび上がってくる。読むうちに物語を通じて「解放」を求める著者の姿勢と、祖父がペンギンになった必然性が読者にも分かるはずだ。

 長篇デビュー作としては静かだが凄みのある作品だ。今後何かもっととんでもない小説を書くのではないかという予感がしたのは、この本を読み終えて“しまった”筆者だけではないだろう。ぜひ騙されたと思って手に取って欲しい。

■山本亮
埼玉県出身。渋谷区大盛堂書店に勤務し、文芸書などを担当している。書店員歴は20年越え。1ヶ月に約20冊の書籍を読んでいる。会ってみたい人は、毒蝮三太夫とクリント・イーストウッド。

■書籍情報
『人鳥クインテット』
著者:青本雪平
出版社:徳間書店
価格:本体1,700円+税
https://www.tokuma.jp/book/b531330.html

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