岡崎京子『危険な二人』で描かれた、女性同士の「シスターフッド」的関係性

岡崎京子『危険な二人』と「シスターフッド」

 第三章では、今まで同居して子供を育てていたセーコが自身の結婚を期に家を出たものの、一週間で離婚。あっさり戻ってきたセーコにいささか複雑な思いを抱くヨーコだが、順調に二人で子育てを再開し、平穏な日々を送っていた。だが、子供の同級生の親の間で二人が同性愛者でないかという噂が広まっていることを知った。

 その内実がどんなにうまくいっていても同性同士、婚姻、血縁関係がないなど「フツウ」からはずれているだけで問題があるとみなされてしまう。徐々にではあるが、いままでなかったことにされていた多様な家族の形が可視化され始めている現代にも通じる議題だろう。

 その後ヨーコは、子供のために「フツウ」になろうと望まない相手との結婚を決めるが、結局うまくいかず離婚し、セーコとヨーコは再び二人で子供を育てていくと決心。

 物語のラストは、これからもセーコとヨーコの人生には予想もできないことが起こり続けるが、これからも微妙に形を変えながら二人の結びつきが続いていくことを予感させるものだ。

 女性同士のカテゴライズできない絆を描いた危険な二人。

 本作は、ラベリングができない関係性の中で救われたり、深く傷ついた経験のある人間にも胸に突き刺さるのではないだろうか。

 セーコとヨーコの関係性は完璧で理想的なものとは言い難い。互いの身勝手な行動で傷つけ合うこともある。だが、常に分かり合えなくても許し合えなくても、相手を大切に思い、助け合うことができる関係性というのは大きな希望に感じられる。

 二人はセーコとヨーコでしかない。しかし、この二人の関係性を通して描かれているテーマは社会の不条理を踏みつけて提携する女性だと考え、この場では「シスターフッド」という言葉を掲げさせてもらう。

■日比生梨香子
英国の大学を卒業後フリーライターになりました。山口百恵ファンです。サブカルチャーに関心があります。@highrika1212

■書籍情報
『危険な二人』
岡崎京子 著
価格:本体980円+税(電子版)
出版社:KADOKAWA
公式サイト

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