『キミスイ』で脚光、住野よるが語る“エンタメとしての小説” 「本ももっと広くみんなで楽しめたらいい」

住野よるが語る“エンタメとしての小説”

こじらせた主人公が好き

――カヤのような、必ずしも万人が共感しないかもしれない主人公を書くのがお好きですよね。

住野:こじらせてる子が好きなんです(笑)。明るい子やクラスの中心人物は、自分で積極的にしゃべれるし、みんなもその意見を聞いてくれるでしょうけど、カヤみたいな子は小説にでもならない限りその気持ちを知ってもらう機会がないと思うんです。

僕がずっと言い続けていることなんですが、こういう人に会ったことがなかったとしても、どこかに必ず生きているんだということです。だから、共感できなくても理解しようと努たいし、幸せを願いたい。

――共感以外にも繋がり方はあるんだということですね。その人の全てに共感できなかったとしても、その瞬間の感情は多くの人が理解できるものかもしれない。そういう瞬間がたくさんある作品だと思いました。

住野:ありがとうございます。誰もが、何かひとつ違っていたら、自分もこの人みたいになっていたかもしれないという感覚が相手を理解する上で重要だと思うんです。そういう感覚で描けたらいいなとずっと思っています。

住野よるにとっての恋愛小説とは

――今回、コラボという新しい試みなので、内容も新しいものをということで恋愛ものを選んだという話ですが、それ以外に恋愛を選んだ理由はあるのでしょうか。

住野:何個かあって、一つは担当さんにいずれ大人の恋愛ものを書いてほしいと言われていたことです。それと『君の膵臓をたべたい』や『青くて痛くて脆い』が恋愛ものだと宣伝されることに違和感を覚えていたのもあります。だったら自分できちんと恋愛ものを書こうと。本気で書いたらキスシーンだけで原稿用紙13枚使うんだぞという思いがありました(笑)

――住野さんにとっての恋愛小説とはどういうものなんでしょうか。

住野:人が人を好きになる瞬間が描かれていることです。ですので、この本もカヤがチカのことを好きだと気付くシーンが一番の肝です。

――チカは、カヤからは目と両手両足の爪以外は見えないという設定ですが、どうして目と爪にしたのですか。

住野:キスや手をつなぐなどの恋愛的な行動をとる時、身体のどの部分が最低限見えればそれができるかなと考えた結果です。爪は身体の末端なので、そこさえ見えていれば動きはわかるでしょうし、目が見えるなら表情もなんとなく想像できそうだなと。それと、男の子が相手の目しか見えない中で口の位置を探し当てるのがいいなと思ったんです(笑)。

――確かに口がどこにあるかわからないので、キスするだけでも大変だから、描写が詳細かつ官能的でした。確かに原稿用紙13ページくらいありそうでしたね。

住野:そうですね。あそこはよっぽど念が詰まっているのかほとんど訂正をくらいませんでした(笑)。

小説と音楽の境界を越えたい

――住野さんは、小説はエンタメとして今はスマホやゲームなどとも戦わないといけないとインタビューでもよくおっしゃっています。今回のプロジェクトも、小説というエンタメをもっと広げていきたいという意識もあったのですか。

住野:そうですね。今回、収録されるTHE BACK HORNさんの『輪郭』という曲で、僕が4行ほど歌詞を書かせていただきました。その中に「産み落とされた場所で生きろなんてさ 君がいるわけでもないのに」というフレーズがあります。これは、文芸界だけで本を出していても、音楽好きの人はそこにはいない、もっと広くみんなで楽しめたらいいのにという思いを込めています。今回のプロジェクトも、小説や音楽といった境界線を越えていくようなものになればいいなと思っていました。

――その意味で、住野さんのファンがTHE BACK HORNの音楽にどういう反応をするか、逆にTHE BACK HORNファンがこの本にどんな反応をするのか楽しみですね。

住野:はい。こんなに格好いいバンドがいるんだと読者さん達におススメしたい気持ちでいっぱいです。本と音楽、2つで完成品という思っていますので、ぜひとも両方を手にとってほしいと思います。

■書籍情報
『この気持ちもいつか忘れる』
著者:住野よる
出版社:新潮社
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