上下関係をもたないマネジメントで注目「ティール組織」は実現可能なのか? その長短を考える

「ティール組織」は実現可能なのか?

 勇気づける人は自他との関係において尊敬と信頼を重要視し、互いの重要感を満たそうとするのに対し、勇気をくじく人は、恐怖で他者を動かそうとする。他者を動かす原理として恐怖を用いた場合、その典型的な反応としてファイト・オア・フライト(戦うか、逃げるか)ということになる。

 なお、恐怖の与え方は様々であり、これは自分自身に対しても言える。例えば「どうして自分だけこんなこともできないんだ!」など自身の重要感を著しく低下させるような恐怖の与え方をすることは適当でない。そのような場合、自己はストレスにさいなまれ、本来持っているはずの力を発揮できなくなってしまう。

 また脳生理学的な見地からすれば、創造性は右脳と左脳の連絡が活発に行われる際に発揮されるが、恐怖の存在は脳内の連絡を遮断し、その機会を失わせることになり得るのだ。

 恐怖というものが如何にそこに集うメンバーの意欲を削ぎ、個人が本来持っているはずのパワーを抑えつけてしまうかお分かりいただけただろうか。

 最後に、これまでティール組織の長所を論じてきたが、短所もある。それは、進化型組織が成立するためには、そこで働くメンバーのすべてが高いレベルで自律し、またモラールも高いレベルで維持されていなければならないということだ。

 しかしながら、日本企業には実務能力を備えていない新卒を採用し、企業内で正規の給料を払いながら教育を施すという慣行がある。それだけではない。日本には欧米社会のようにキリスト教という確固とした道徳的基盤がないため、社会人としての道徳教育も担ってきたのだ。

 それに対して欧米企業には新人というものが存在しない。彼らは学生のうちから長期のインターンシップを経験するか、職業訓練機関などに進学し、フルタイムまたはパートタイムで働きながら、実務能力を自分で身に付けるのだ。それに勿論、企業が道徳教育など施すこともあり得ない。

 また通常は、どのような組織にもフリーライダー(ただ乗り)は生まれるものだが、これを決して許してはならない。悪貨は良貨を駆逐する、そのような事態を根絶できなければ、ティール組織は案外もろいかもしれないのだ。

■新井健一
経営人事コンサルタント、アジア・ひと・しくみ研究所代表取締役。1972年神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、大手重機械メーカー、アーサーアンダーセン(現KPMG)、同ビジネススクール責任者を経て独立。経営人事コンサルティングから次世代リーダー養成まで幅広くコンサルティング及びセミナーを展開。著書に『いらない課長、すごい課長』『いらない部下、かわいい部下』『働かない技術』『課長の哲学』等。

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