『幽☆遊☆白書』冨樫義博、漫画家としての戦いーージャンプバトル漫画への鋭い批評性とは?

『幽遊白書』作者の漫画家としての戦い

 一番好きな漫画は何かと聞かれたら、冨樫義博の『幽☆遊☆白書』(集英社、以下『幽白』)だと答えている。

 1990~94年にかけて『週刊少年ジャンプ』で連載された本作(全19巻)は、ジャンプが歴代最高発行部数となる653万部へと向かっていく絶頂期の作品で、鳥山明の『DRAGON BALL』と井上雄彦の『SLAM DUNK』と並ぶ、当時の人気漫画として語られることが多い。

 だが、上記の二作が「古典的名作」としての立ち位置を確立したのに対し『幽白』には、古典になることを拒むような歪さがある。

 以下、ネタバレあり。

 物語は14歳の不良少年・浦飯幽助が子供を助けようとして車にひかれるところからはじまる。幽霊となった幽助が、人間の体に戻るために様々な人達を助ける姿が描かれるのが、JC(ジャンプコミックス)1~2巻の流れ。 

 3巻以降は幽助が霊界探偵として悪い妖怪と戦う霊界探偵編がスタート。霊界からの指令で、様々な妖怪と戦う中で幽助は、不良で霊感の強い桑原和真、人間として暮らす妖狐の蔵馬。邪眼を持つ妖怪・飛影とチームを組むようになり成長していく。そして、敵の戸愚呂(弟)に暗黒武術大会のゲストとして招待され、桑原、蔵馬、飛影、そして師匠の玄海と共に参加することになる。最終的にトーナメント型の武術大会に向かう流れは、当時のジャンプ漫画の必勝プロットであり『幽白』もその流れを忠実になぞっていた。

 あまりにセオリー通りだったため、当時はあざといと思ったが、それでも読んでいたのは、よくある展開の中に光るセンスを感じたからだ。それは線のタッチや、省略のうまさといったテクニックの部分に強く現れていたが、トーナメントの描き方も一筋縄ではいかなかった。

 暗黒武術大会は、幽助たちにとっては理不尽極まりない仕組みとなっており、敵の妖怪チームだけでなく、運営側が仕組んだ卑怯なルールとも幽助たちは戦わねばならない。

 デビュー作となった短編「とんだバースディプレゼント」から最新作の『HUNTER×HUNTER』に至るまで、冨樫はゲームをよく劇中に登場させるが、物語自体もとてもゲーム的だ。それはゲームの背後にあるシステムにとても敏感だということである。だから冨樫の漫画は、最終的に「システムにどう抗って裏をかくのか」という戦いになっていくのだが、そんな幽助たちの戦いと、ジャンプにおける冨樫の「漫画家としての戦い」がうまくシンクロしていたことが、暗黒武術大会編の面白さだった。

幽遊白書 16巻
 対して、その次に描かれた仙水編は、作者自身も含めた少年ジャンプ的価値観を徹底的に破壊した問題作だったと言えるだろう。

 物語は、魔界と人間界の間にある結界を解き、妖怪を地上に解き放つことで人類を皆殺しにしようとする仙水忍との戦いを描いたもの。仙水はかつて幽助と同じ霊界探偵として、人類を守るために妖怪と戦っていたのだが、ある事件で妖怪を蹂躙する人間を見たことで人間に絶望する。

 仙水の元には領域(テリトリー)と呼ばれる異能力に目覚めた人間たちが集まるのだが、彼らもまた人間に対する深い絶望を抱えていた。幽助たちと戦う中で、彼らの暗い内面が読者に晒されるのだが、踏みこんではいけない領域に作者が足を進めているのは明らかだった。

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