海猫沢めろんが語る、独自の子育て論 「もっと逸脱してロックに生きてほしい」

海猫沢めろんが語る、男親の子育て論

大人が知らない新しいことに手を出すことを肯定する

――親の役割には「選択肢を適度に絞って選びやすくすること」もある、と。

海猫沢:ただ問題は、親が与えるものは子どもにとっては古いこと。俺らはWindows95みたいなものだから、Windows95用の最新ソフトを子どもにあげても「そもそもOSが違うんですけど」みたいなことになる(笑)。

――わかります(笑)。最近よく言われる「エビデンスに基づく教育」は、公教育においては「基づかない教育」より良いと思う一方、新しいものについてはデータがないわけで、家庭で過剰にエビデンス重視になると「新しいこと、よくわからないものはやらない」になっちゃうから微妙だなと。

海猫沢:子どもが小学校に入るくらいのときから「コロコロコミック」を「ここに載ってるのは最新情報だから、これ見といたらいいよ」って買ってあげるようにしたんですよ。だけど、うちの隣に住んでる中学生の子と遊び始めるようになったら、その子から得た情報のほうが圧倒的に鮮度が高くて。息子が小3にして急にヨルシカとかYOASOBIを聴き始めた(笑)。「マジか!」と。『フォートナイト』のキルシーンをまとめた動画でそのへんの音楽が使われていて。クチコミとYouTubeが最新情報の入手元になってる。でも大人が与えているものを「好き」って言うより、大人が知らないところで勝手に見つけている方がいいなと。最先端は子どもの文化のなかにある。それを同じ目線で大人も摂取していればかなり刺激になると思う。

 今はゲーム大会はオンラインで開催されているから、その隣の子は小学生の頃からPC買ってDiscord使ってエントリーしているわけ。すごい吸収力なんですよ。

本当はゲーマーになりたいのに学校では「サッカー選手になりたい」と言う

――めろん先生の子どもは夢、ありますか?

海猫沢:小さいころからずっと訊いてきたんだけど、小2まで彼は「何もやりたくない。何もなりたくない。勉強もしたくない」って言ってたんです。だから「それはすごいいいことだよ。『何もやらない』ことについて君は考えるべきだ」と。「何かをやらないといけない」「何かにならないといけない」を突き詰めていくと「生産性がない人間は不要だ」っていうナチス的な考えに行き着くから、と。まあ、当然ピンと来てなかったんだけど(笑)。

――うちの子どもも、僕や妻が仕事してると遊んでくれないからか「お仕事したくなーい」って言いますね。

海猫沢:でも3年生になったときに初めて「先生になろうかな」って言い始めた。「なんで?」って訊いたら『NARUTO』の影響だった(笑)。リーくんとガイ先生の関係性が熱いから「これがいい!」と。最近は「ゲーマーになりたい」って言ってます。ただ今っぽいのは「俺、エンジョイ勢だからなあ。がんばってプロになるとかじゃないんだよな」とか言うの。俺が子どものころは「一生ゲームやって暮らせればいいのに」と思っていたけど、いざゲームをやって暮らせる世界が実現したら、それはそれでめちゃくちゃ努力しないといけない。だから「エンジョイ勢でいっか」と。そんなこと意識しないで楽しく暮らせないのかなと思うんだけどね。

――本当にエンジョイ勢ならいいですけど、遊びにおいても序列を意識させられて敗北感を抱いて降りてるなら切ないですね。

海猫沢:しかも俺にはゲーマーになりたいって言うのに、うちの子どもはこざかしいから学校の課題には「サッカー選手になりたい」とか書くわけ。小1のときから「こういう場ではこう言えばいい」って察して書いてる。

――「本音」じゃなくて「大人が求める正解」を答えるって小中学校受験した子を中心にすごくいるみたいですね。就活でも蔓延してますけど。

海猫沢:社会適応できる人間が俺は嫌いだから、モヤモヤするんだよね。俺は子どものときからうるさく言ってくる親がイヤだった。でもうちの子はいわゆる「いい子ちゃん」なの。父親の俺はロックが好きで「パンクスになりたい」とか思って反抗してた人間なのに(笑)。

 自分の中でのルールを自分で決めて、それに準じて生きているのが俺の中での「いい人間」なんですよ。最近だと学校でも「自分で考えられる人間になれ」っていう風になってきてるみたいだけど、でも考えきっていなくて、世の中の規範とか親に言われたことから抜けられない人が多い。息子を見てると「型にはまってるな」って思っちゃう。もっと逸脱してロックに生きてほしい。

――僕も自分の子どもには「いい子」だけどつまんない人間になるよりは、いい子じゃなくていいから楽しく生きてる人間になってほしいんですが、めろん先生は子どもを変えるために何かしていますか?

海猫沢:環境を変えてあげてる。社会勉強としてヨガに行ったり、お寺に行ったり、ラーメン食いに行ったり……って考えてみるととくに何もしてない(笑)。変わった人と話すと世界が広がるかなとは思うんで、いろんな人に会わせてます。

――いろんな価値観に触れさせてあげたいですよね。何か告知があればお願いします。

海猫沢:元・でんぱ組.incの夢眠ねむさんが、自分の書店で「耳だけ夢眠書店」という企画をやっています。『パパいや、めろん』を買っていただければ対談音声がついてきますので、よければそちらでお買い求めください。あと、ぼくが作詞をてがけたmeme tokyoのサードシングル『モラトリアムアクアリウム』が発売になってます。曲もメンバーもすげえ尖ってて切実なんでこれは全国のキッズたちにも聞いてほしいね!

■書籍情報
『パパいや、めろん 男が子育てしてみつけた17の知恵』
海猫沢めろん 著
発売:6月24日
定価 : 本体1,200円(税別)
出版社:講談社

 

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