りぼん、なかよし、ちゃお……90年代、少女マンガ誌の逆転劇はどう起こされた?

90年代、少女マンガ誌の逆転劇

「ちゃお」大逆転の施策③「おはスタ」を通じての頻繁なリテンション

 さらに「ちゃお」に追い風をもたらしたのが、97年に始まった「おはスタ」である。小学館が全面協力した小学生向けバラエティ番組「おはスタ」は、「コロコロ」や「ちゃお」関連情報を平日「毎日」届けた。

 少女マンガ雑誌のペースは月刊、つまり月1で読者にリテンションを与えるものだったのが、週1回のTVアニメ放送よりもはるかに頻度が高く情報やコンテンツが届けられるようになった。当たり前だが、月1回書店を通じてしか手に入らないものよりも、週5回TVで放送されているもののほうが認知度は高まり、親しみは増しやすい。

 さらに同じく97年には『ポケモン』ブームに合わせて「ちゃお」でも月梨野あゆみ『ポケットモンスターPipiPi★アドベンチャー』が始まっている。

 「おはスタ」と『ポケモン』の登場こそ、97年に小学生男子にとってのトップ雑誌の座を「ジャンプ」から「コロコロ」に奪取させ、以降、「小学生男子はコロコロ。ジャンプは中学生から」という棲み分けを決定的にしたものだったが、女児マンガ市場に対しても大きな影響を与えたのだ。

 「学校図書館」2011年11月号では、「ちゃお」は人気アイドルのマンガやグラビアページなどを売りにして小学生女子の心をつかんだ、と分析されているが、そうした施策は「おはスタ」と連動したがゆえに効果を倍増させることができた。

「ちゃお」大逆転の施策④読者年齢の設定をブレさせない

 もうひとつ「ちゃお」が違った点がある。

 「創」2011年5・6月号で小学館の都築伸一郎・第一コミック局チーフプロデューサー(当時)は「小学生までは、まだマンガが総合娯楽誌としての役割を果たしているのです。その上の年齢になると、ファッション誌などを選択する読者が増え、マンガをコミックスで読む傾向が強くなってきています。かつては大部数を誇った『りぼん』『なかよし』が部数を落としていった一因として、読者年齢の上昇が挙げられるでしょう」と語っている。

 長期人気連載作品が雑誌の読者年齢を引き上げてしまうことはよくある。だから意識的にリセットして対象年齢を下げなければ、ターゲットがブレていく。何歳から何歳向けの雑誌なのかというポジショニングがブレると、誰にも刺さらないものになっていく。個別の大ヒット作品が生まれたとしても、雑誌としては選ばれなくなってしまうのだ。

 しかし「ちゃお」はブレなかった。

時代に合わせた「総合娯楽メディア」としての「ちゃお」

 94年後半から「なかよし」「りぼん」の部数は下降し始め、96年末には「りぼん」180万部、「なかよし」110万部(『出版指標年報1997年』)。それを部数を伸ばす「ちゃお」が追いかけた。

 以降も流れは変わらず、2001年には「学校読書調査」の「読んでいる雑誌」ランキングの小学4、5年女子で「ちゃお」が「りぼん」を抜いてトップになり、翌2002年には100万部を突破して小6女子でも「ちゃお」がトップになる。2005年には「りぼん」「なかよし」を足した部数より「ちゃお」が大きくなった(「創」2005年6月号)。

 もちろん「ちゃお」とて少子化の波には抗えず、その後の部数は減少傾向にあるが、アニメや『アイカツ!!』など他の媒体やIPとの連動を行い、付録を丁寧に作り、『12歳。』『極上!!めちゃモテ委員長』『いじめ』などのオリジナルヒット作品の力によって、2010年代後半以降も小学生女子向けマンガ誌ではシェア70%前後を維持している。

 「ちゃお」は連載作品からヒットを生み出すだけでなく、コンテンツを子どもの生活サイクルに組み込ませること、流行や時事風俗を取り入れること、強い影響力を持つTVと連携することを仕組みとして完成させ、継続したことで、小学生人気を盤石なものにした。

 マンガ雑誌の歴史を遡ると、そもそも「なかよし」や「りぼん」は創刊当初「総合娯楽誌」として誕生し、マンガはいくつかあるコンテンツのひとつを構成しているだけだった。それがマンガの人気に引きずられるようにしてマンガの比重を増していき、80年代から90年代にかけてコミックス単行本が雑誌以上に売れるようになっていくと「マンガ単行本の元になる原稿を連載するためのマンガ雑誌」という位置づけに変わっていった。

 ところが「ちゃお」だけは「マンガを連載するためのマンガ雑誌」ではなく、「小学生女子向けの総合娯楽誌」を意図していた――時代に合わせて、かつての総合娯楽誌とは装いを変えたものとして。それこそが逆説的に、女児向けマンガ誌として「ちゃお」が選ばれるようになった理由なのだ。

■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。

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