テイクアウト、自動調理、人工肉……コロナ禍で「食」の明日はどう変わっていく?

コロナ禍で「食」はどう変わる?

食に対する多様なニーズそれぞれに応える未来が待っている

 コロナ禍で若干棚上げされた感はあるが、地球全体の人口増による食肉需要の高まりに伴うプロテイン(タンパク源)不足、大量の食肉製造のための環境破壊、フードロス、肥満や生活習慣病の蔓延などが依然として人類の大きな課題であることにも変わりはない。そうした視点から、植物由来の「人工肉」や肉の細胞を用いた「培養肉」などの話ももちろん扱われる。

 ただし従来からの大きな流れと、コロナ禍による大きな変化、このふたつの動きは必ずしも重なるわけではない。しかし本書はそのどちらも扱うため、かなりのボリュームとなっており、トピックは多岐にわたる。だから一から順に読むよりも、まずは自分の興味のあるところから読むといいだろう。

 本書でも指摘されているが、食関連市場は非常に大きく、同時に個々人の嗜好のバラツキも激しいため、非常にたくさんのニッチが成立する。食のニーズはきわめて多様だ。だからこそ読者はパラパラめくって自分の興味を入り口に読み進めていき、自分が「食」のいったい何に関心があるのか、食に何を求めているのかを確認した上で、それと関係するトピックをさらに読んでいくといいだろう。

 暗い未来像ばかり想像させられる今日において、ワクワクさせてくれるものも紹介されている。

 たとえばレシピアプリとIoT調理家電が融合して「スマホアプリでレシピを選ぶと調理家電と連動して材料を勝手に入れて自動で作っておいてくれる」といった近い将来実現するだろう家電像や、動物性タンパク質を使わない人工肉はムスリムやヒンドゥー教徒のように特定の肉が禁じられている人たちに新たな市場を開拓するものでもある、人工肉が最終的に目指すのは「肉以上の未知のおいしさ」である、といった話だ。

 食に対するニーズの多様さそれぞれに応えてくれるサービスや技術が同時多発的に猛スピードで開発されていっている。そのすでに訪れつつある未来が存分に味わえる一冊だ。

■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。

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