王宮書庫室に図書館、本の市場……本好きの心をくすぐる『虫かぶり姫』の美麗な世界観

本好きの心をくすぐる『虫かぶり姫』

 喜久田はもともと『神風怪盗ジャンヌ』や『満月をさがして』など、集英社の『りぼん』でヒット作を多数手がけた漫画家・種村有菜のアシスタントとしてキャリアをスタートしている。種村の得意とした華美なドレス、レースやフリルの繊細な筆致とよく似た喜久田の作風は、ここで鍛えられたものだろう。さらに「ヒロインが登場人物の誰からも愛される」という原作の特徴も、種村作品と共通するところがある。エリアーナの“愛され体質“の描写には、喜久田のキャリアから得られた知見が光っているのだ。

 もちろんエリアーナは順風満帆なだけではない。ライバルの出現や、自身の心の繊細な揺れにナーバスになったりと苦悩も経験する。その苦しみを乗り越え、エリアーナが幸せになっていく姿こそが本作の味わい深さだろう。

 美しい世界の中で様々な体験をしながらも幸せに満たされていくエリアーナの様子に、我々は共に満たされていく。こんな時流だからこそ、心がじんわり温まるような繊細な恋と、大好きな本に包まれた作品で心を癒してみてはどうだろうか。本書を読めばきっと、お気に入りの一冊を思い返し、抱いて眠りたくなることだろう。

■Nana Numoto
日本大学芸術学部映画学科卒。映画・ファッション系ライター。映像の美術等も手がける。批評同人誌『ヱクリヲ』などに寄稿。Twitter:@nanaics

■書籍情報
『虫かぶり姫』(ZERO-SUMコミックス)既刊3巻発売中
作画:喜久田ゆい(@kikutayui
原作:由唯(@view829
キャラクター原案:椎名咲月(@satsukisheena
出版社:株式会社一迅社
https://online.ichijinsha.co.jp/zerosum/comic/musikaburihime

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