Netflixドラマ原作『保健室のアン・ウニョン先生』 BB弾とおもちゃの剣で対峙する"邪悪なものたち"

『保健室のアン・ウニョン先生』書評

 BB弾の代わりに詰めた霊的パワーをぶっ放して、虹色の剣でぶった切っていくアン・ウニョンの姿は可笑しくも勇ましい。しかし、彼女がその一発で、そのひと振りで邪悪なものたちと対峙しながら見ているのは、「いつか誰かを」と遠くにあるかすかな可能性を想像しながら手渡し続けた先にある、今よりほんのちょっと快適で過ごしやすい未来なのかもしれない。

 担当クラスを持たない養護教諭は、特定の生徒たちと深くかかわる機会は少ない。けれど、保健室はいつでも、休息を必要とするすべての生徒たちに向けて、ときには人間ではないものたちにも開かれている。日々、少しずつメンバーを入れ替えながらも、必要なときにいつもそこにあるもの。旅の途中に疲れた羽を休めるための、止まり木のような連作短編集だ。

 『保健室のアン・ウニョン先生』は、これまでも精力的に韓国の文学を翻訳、出版してきた亜紀書房の、新しい文学シリーズの1作目である。「チョン・セランの本」と、作家自身の名が冠されたこのシリーズは6月末に『屋上で会いましょう』(すんみ訳)、2021年1月に『地球でハナだけ』(すんみ訳)の出版が予定されている。

 悪いものたちと対峙するためにウニョンがおもちゃの銃と剣を手にしたように、チョン・セランの生み出す物語を選びとっていきたい。遠くにあるかすかな可能性を、私もまた信じたいのだ。

■岩渕宏美
書評家・ライター。「失われた屋号を求めて」(新文化)、「働かないで好きなだけ読みたい」(POSSE)連載中。

■書籍情報
『保健室のアン・ウニョン先生』(チョン・セランの本1)
著者:チョン・セラン
翻訳:斎藤真理子
出版社:株式会社 亜紀書房
https://www.akishobo.com/book/detail.html?id=945

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