『アオアシ』が描く、ユースクラブ選手のリアル 部活動のサッカーとの違いとは?

『アオアシ』が描くユースクラブのリアル

部活動のサッカーとの相違点

 対して高校のサッカー部はというと、入り口はあくまでも部活動なので、その学校の生徒であれば在籍できるが、これも強豪校に関しては主力の大半が推薦(スカウト)組だったり、学校によってはJ下部でユースに昇格できなかった元J下部生を積極的に集めているところもある。おそらく、高校までサッカーを続けているからには一度くらいJ下部のセレクションを受けたり、幼い頃にJ下部に合格することを目標にサッカーに取り組んできた選手たちも多いので、Jクラブに対しての思いというのは多かれ少なかれみんな何かしら抱えていることは間違いない。むしろJ下部だけには負けたくないと思っている選手たちも相当数いるのが現実である。

 『アオアシ』本編ではいま、プレミアリーグ(U-18世代のトップリーグ)の真っ最中で、特にここ数巻は船橋をはじめとした高校の部活チームとの戦いが続く。プロの下部組織チームと高校の部活チームが同じ公式戦で戦えるというのもユース年代のサッカーの特徴の一つであるといえる。今回の船橋戦、そして21巻以降で展開される青森戦はいまのユース年代のサッカーのリアルな一旦が垣間見られるいい機会である。「クラブは戦術を教えられるが勝つことは教えない」という青森星蘭の監督のひとことは、サッカーの育成年代に興味を持つ人間なら、思わずいろいろ考えさせられる非常に深い言葉である。

 同じサッカー、同じ育成年代でありながら、そのイデオロギーはJ下部と部活では異なる部分があることは間違いない。ただ、どちらかが間違っているわけでもないし、決してお互い歪みあったり、乏しめあったりしているわけでもない。この作品に出てくる指導者たちは、みんなそれぞれの環境で自分なりのメソッドで選手たちを導いている。その導く先は単に目先だけの勝利ではなく、常にもっと高いところを見据えている。そして選手たちも、自らの目標のために真っ直ぐに練習に取り組んでいる。

 ”突き抜けた”選手の姿を目の当たりにして恐怖を覚えた主人公・葦人にとって、今回の船橋戦は初めての大きな挫折であったに違いない。果たして自身が”突き抜けた”選手になるために、これから何を学んで、どう成長していくのか。J下部組織に所属して、強烈な対戦相手との戦いの中で己の持つ突き抜けた才能をどのように発現していくのか、周りの人間がどのように関わっていくのか。部活とは一味違うクラブチームならではの成長譚を、未読の方はSTAY HOME週間であるこの機会に味わっていただきたいと思う。

■関口裕一(せきぐち ゆういち)
スポーツライター。スポーツ・ライフスタイル・ウェブマガジン『MELOS(メロス)』などを中心に、漫画、特撮、芸能、ゲーム、モノ関係の媒体で執筆。他に2.5次元舞台のビジュアル撮影のディレクションも担当。

■書籍情報
『アオアシ(20)』
小林有吾 著
価格:本体591円+税
出版社:小学館
公式サイト

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