「魔法科」「はめふら」メディアミックスが売り上げの起爆剤に ラノベ週間ランキング

「魔法科」「はめふら」売り上げ好調

 アニメ化が原作人気を押し上げたといえば、第9巻の特装版を含めたシリーズ全巻が30位までに入った山口悟『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』(一迅社文庫アイリス)シリーズも、4月にスタートしたアニメの評判が、元からの人気ぶりを何段も押し上げたようだ。

 女性のキャラクターを操作して、イケメン男性との恋愛成就をめざす"乙女ゲーム"の中で、ヒロインをいじめるキャラクターとして登場する悪役令嬢に、なぜか自分が転生していることに気づいたカタリナ・クラエスという主人公が、シナリオにあった追放や処刑といった悪役にふさわしい破滅エンドを回避しようと動き回る。ゲームシナリオという"運命"はなかなか強固で、逆らおうとしても次から次へと破滅へのフラグが立ってしまう状況を、どうくぐり抜けるかが読みどころだ。

 ゲームの本来のヒロインは、平民の出ながら光の魔力を持ったマリア・キャンベルで、彼女がシナリオどおりに4人のイケメン男性との恋愛を成就させれば、カタリナにはバッドエンドが待っている。かといって、虐めて排除しようとしてはシナリオの思うつぼ。さてどうする? そう考えてカタリナが巡らす策略が、どこか間が抜けていて笑える。

 責められても切り抜けられるよう魔力を高める手段として、選んだのがなぜか畑での野菜作り。4人のイケメン男性のひとりで第4王子のアランから勝負を申し込まれた際に、前世で得意だった木登りを選ぶあたりも、現世の貴族令嬢にあるまじき振る舞いだ。ただ、こうした開けっぴろげな性格が、本来だったら正当なゲームヒロインに向けられるべきイケメンたちの関心をカタリナへと引き寄せていく。

 悪役令嬢転じてヒロインに。もっとも、当人は、油断すれば破滅が待っているから、必死でフラグを立てまいと行動しているだけで、それが自身の不思議な魅力に繋がって、イケメンたちを引き寄せているとは露ほどにも思わない。こうしたギャップが醸し出すおかしさと、元は破滅フラグの回避ながらも他人に優しく、裏表なしに接するカタリナというキャラクターの魅力が、『はめふら』を人気シリーズに押し上げた。

 そこに、夕蜜柑『痛いのは嫌なので防御力に極振りしたいと思います。』をアニメ化し、ほんわかとした雰囲気と迫力のバトルシーンを丁寧に映像化したSILVER LINK制作のアニメが乗ったのだから、これは最強だ。わがまま放題だったカタリナが、自分は女子高生からゲームの中の悪役令嬢に転生したと気づき、内容を思い出しながら必死に破滅フラグを回避しようと動き回る姿が丁寧に描かれている。

 内田真礼が声を担当しているカタリナは、お嬢様ながらも中身は17歳の女子高生、つまりは庶民というキャラクターのツボがしっかり抑えられ、演じられている。カタリナが脳内で、「議長」や「弱気」「強気」「真面目」「ハッピー」といった異なる性格で繰り広げる会議シーンでの演じ分けも実に楽しい。

 第9巻まで来た原作小説は、ゲームに描かれていた魔法学園での日々で、破滅フラグを回避するのに成功したカタリナが、卒業して魔法省に勤めるようになるところまで進んでいる。ゲームシナリオの呪縛から逃げ切った、そう思わせて実は乙女ゲーム『FORTUNE・LOVER』には続編があって、前よりも悪い破滅フラグが待ち受けていることが分かる。どこまで続くこの運命! ハマればどこまでも付き合っていかざるを得ないのも、アニメで目覚めさせられたファンの運命だ。

■タニグチリウイチ
愛知県生まれ、書評家・ライター。ライトノベルを中心に『SFマガジン』『ミステリマガジン』で書評を執筆、本の雑誌社『おすすめ文庫王国』でもライトノベルのベスト10を紹介。文庫解説では越谷オサム『いとみち』3部作をすべて担当。小学館の『漫画家本』シリーズに細野不二彦、一ノ関圭、小山ゆうらの作品評を執筆。2019年3月まで勤務していた新聞社ではアニメやゲームの記事を良く手がけ、退職後もアニメや映画の監督インタビュー、エンタメ系イベントのリポートなどを各所に執筆。

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