『Dr.STONE』はコロナ禍の今こそ読みたい“科学漫画”だ 千空のトライ&エラーに学ぶ、地道な科学的目線

コロナ禍の今こそ『Dr.STONE』を読もう

 しかし、第12巻以降、舞台が島に移り、石化装置をめぐる攻防戦になると、こういった不安要素が整理され、少年漫画としての面白さが復活してきた。船に乗っていた仲間たちが石にされた後、千空たちが一人ずつ復活させていくという展開も上手い。増えすぎたキャラクターを改めて読者に紹介し、物語を整理している。おそらく千空のように作り手もトライ&エラーを繰り返しているのだろう。とても理知的な作りである。

 それにしても、新型コロナウィルスの騒動で世界中が揺れている渦中に『Dr.STONE』を読むと、千空の考え方にとても励まされる。

 千空はテンションが高い男の子で、ジャンプ漫画というよりは『月刊コロコロコミック』(小学館)のキッズ漫画に出てくるような、おもちゃが大好きな熱血少年に近い。だが、物事に対するアプローチはとてもクールだ。知識に裏付けされた観察眼があり、目的達成のためにフローチャートを組み立て、地道な実験を繰り返す根気強さを持っている。理性的な気真面目さと破天荒さを兼ね備えた千空は、少年漫画の主人公としては珍しい存在だと言える。おそらく、なにかを成し遂げる科学者には、こういうマインドの人は多いのだろう。

 正体不明の超常現象(ファンタジー)に見えた石化光線も、情報を集め、細かい分析を進めていくと、再現性(ルール)のある物理現象だとわかってくる。「再現性があればそれは全部科学だ」「科学で戦えるんなら負けねえよ」(第12巻)と千空は言う。新型コロナウィルスの衝撃で、色あせてしまった作品も多いが、『Dr.STONE』のように今まで以上に存在意義を増した作品もある。千空のような地道な科学的目線こそが、今は必要なのかもしれない。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■書籍情報
『Dr.STONE』15巻(ジャンプコミックス)
原作:稲垣理一郎
作画:Boichi
出版社:集英社
価格:本体440+税
https://www.shonenjump.com/j/rensai/drstone.html

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