メイクする自由、しなければならない不自由ーーTwitterで話題『だから私はメイクする』を読んで

『だから私はメイクする』を読んで

男性はなぜメイクを理解しないのか

 この作品には、しばしば周囲の男性のメイクに対する無理解が描かれる。なぜ、男性はメイクを理解しないのか。本作のモブの男性陣は専らメイクを他者のためにやっていると解釈している。自分のためにメイクするという発想が出てこないのだ。

 ほとんどの男性は、筆者も含めて、上述した熊谷さんのようにメイクに救われた劇的な経験をしたことがない。社会的にそういう選択肢はないのである。すっぴんで会社に行く女性が揶揄されるのと同様、一般的には男性がメイクして出勤すれば揶揄の対象になるだろう。ジェンダーの境界を挟んだ裏返しの不自由がここにはある。

 本書にはメイクの楽しみを知る例外的な男性として、ゲイの男性吉成さんが登場する。その吉成さんとて社内ではメイクの趣味を隠しているが、彼だけは女性のメイクを揶揄することのない存在として描かれる。吉成さんは少なくともメイクで自分を救えることを知っているからだ。

 メイクが自由で楽しいものであるために大事なことがここには描かれている。筆者には、メイクという自由を謳歌できる人たちが羨ましく思える。自由と不自由は時にすぐにひっくり返ってしまうものだからこそ、本書のような作品を大切にすべきだし、その自由を大事にしてほしいと思う。

■杉本穂高
神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人。ブログ:「Film Goes With Net」書いてます。他ハフィントン・ポストなどでも映画評を執筆中。

■書籍情報
『だから私はメイクする』
著者名:シバタヒカリ/劇団雌猫
出版社:祥伝社
定価:本体920円+税
<発売中>
出版社サイト

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