小さな田舎町に漂う、不穏な同調圧力ーー吉村萬壱『ボラード病』が描くのはコロナ禍の日本か?

ディストピア小説『ボラード病』読み返して

 「これはボラードというのだ。これだけは何があろうと倒れない」ボラードとは、船を繋留させるためにロープを繋ぎ止めておく杭のこと。恭子はそれを、海塚の清掃活動に参加した際にとある老人から教えてもらう。海塚では魚も肉も安全だと、私たちの町はクリーンなのだと、結び合っているのだと妄信する。ボラードはコミュニティを維持するために必要であり、人々の心の拠り所にもなっている。果たしておかしいのはどちらだろう。

 最後の数ページで、隠されていた真実が白日の下に晒されていく。世界はもう一度、別の意味でひっくり返る。二度目に読んだときは、作中の景色がまったく違って見えるだろう。海塚は架空の町だが、この世界のどこかに存在するような気がしてならない。それは、私たちが住むこの国なのかもしれない。

■ふじこ
10年近く営業事務として働いた会社をつい最近退職。仕事を探しながらライター業を細々と始める。小説、ノンフィクション、サブカル本を中心に月に十数冊の本を読む。お笑いと映画も好き。Twitter:@245pro

■書籍情報
『ボラード病』(文春文庫)
著者:吉村萬壱
出版社:文藝春秋
定価:本体520円+税
発売日:2017年02月10日
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784167907891

■著者最新刊
『流卵』
著者:吉村萬壱
出版社:河出書房新社
定価:本体2,000円+税
発売日:2020年2月27日
http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309028620/

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