「とある」シリーズ新たな外伝『とある科学の未元物質』で垣間見えた、垣根帝督の人間らしさ

とある外伝で垣間見えた垣根帝督の人間味

 マンガという媒体の性質上、絵柄も物語を読み進めるうえでの重要なフックとして機能する。如月南極の絵柄はスタイリッシュでありながらも、ただ単に綺麗なだけに留まらない、毒やエッジの効いた人物の表情描写で冴え見せる。学園都市の暗部をえぐり出す物語にふさわしいタッチをもつ描き手として、適材適所の抜擢であった。

 垣根帝督のヴィジュアルの良さはむろんのこと、戦闘中の林檎や黒夜海鳥がみせる少女の狂気的な表情がとりわけ印象深い。人物の表情だけでは押し切れないバトル描写にはさらなる発展の余地を感じさせるが、これとて現時点でも十分なクオリティを保っている。垣根帝督というポテンシャルにあふれたキャラクターの魅力を的確に引き出し、そこにさらなる可能性を加えた如月南極に拍手を送りたい。

 本作は残念ながら他の外伝とは異なり、雑誌連載を経ることなく単巻完結に終わった。そもそも第1話は2019年8月刊行のムック『とあるマガジン』に発表され、続きは一般的なマンガの発表形態である雑誌連載とはならないまま、第2話から第4話までが書き下ろしというイレギュラーなかたちでコミックスが刊行された。外伝という性質上ある程度読者層が限定されるのは致し方ないが、作画にも恵まれたファン待望の垣根外伝が、大きな可能性を秘めながらも、広がりにくい形で幕を閉じてしまったことが惜しまれる。

 『禁書目録』15巻のクライマックスで、垣根は一方通行に向けて「結局テメエは俺と同じだ。誰も守れやしない」と叫んだ。『とあマタ』を通じて垣根が抱え込んだ悲劇の一つが明らかにされたが、作中では林檎の前にも大事な少女を失っていたらしいことがほのめかされるなど、その過去には謎が残る。『とあマタ』のラストには「終」の文字が刻まれているが、垣根にはまだまだ語られるべき物語がある。垣根帝督のポテンシャルを再認識させた外伝の刊行を喜ぶとともに、今後さらなる展開が生まれることを期待したい。

■嵯峨景子
1979年、北海道生まれ。フリーライター。出版文化を中心に幅広いジャンルの調査や執筆を手がける。著書に『氷室冴子とその時代』や『コバルト文庫で辿る少女小説変遷史』など。Twitter:@k_saga

■書籍情報
『とある魔術の禁書目録外伝 とある科学の未元物質』(電撃コミックス)
作画:如月南極
原作:鎌池和馬
キャラクターデザイン:はいむらきよたか
発行:KADOKAWA
価格:本体650円+税
<発売中>
https://www.kadokawa.co.jp/product/321911000750/

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