新型コロナウイルス危機は人類史になにをもたらす? 2人の“知の巨人”の言葉を考察

世界の知識人、コロナへの意見は?

 ハラリが懸念するのは、今回の緊急事態が、バイオメトリクス技術を用いた新しい監視システムに合法性を与えてしまうことだ。なぜならば、「プライバシー」か「健康」かという二者択一を迫られた場合、たいていの人は健康をとるから。しかし、ハラリはこの二者択一がそもそも間違っており、「プライバシー」と「健康」は両立可能であるし、そうすべきであると主張する。そこで重要になってくるのが、「市民のエンパワメント」である。ハラリは、新型コロナウイルスの地域的な大流行の阻止に成功した韓国、台湾、シンガポールを例に挙げながら、「集中監視システムと厳罰の組み合わせが、有益な方針に人々を従わせる唯一の方法ではない。市民が科学的事実を告知され、そうした事実を伝える当局に信頼を寄せたとき、「ビッグ・ブラザー」が肩越しに目を光らせなくとも、彼らはしかるべき対応をとるようになる」と述べながら、そのためにも我々は、「これから先の日々、根拠のない陰謀論や利己的な政治家よりも、科学的なデータや医療の専門家を信頼することを選択しなくてはならない」と提言するのだった。

 奇しくも、「人類史」という膨大な歴史の中から、今を生きるヒントを取り出そうとしてきた2人の「知の巨人」が、今回の危機に際して緊急寄稿した3つの文章。彼らと同じく「新型コロナウイルス危機」という世界的な危機を目の前にした我々は、それらの言葉から何を学び取るべきなのだろうか。この機会に、それぞれの著作を手に取りながら、考えてみるのもいいかもしれない。

■麦倉正樹
ライター/インタビュアー/編集者。「smart」「サイゾー」「AERA」「CINRA.NET」ほかで、映画、音楽、その他に関するインタビュー/コラム/対談記事を執筆。

■書籍情報
『文庫 銃・病原菌・鉄(上)』
『文庫 銃・病原菌・鉄(下)』
ジャレド・ダイアモンド 著
倉骨彰 訳
出版社:草思社
価格:本体900円+税

『21 Lessons(トゥエンティワン・レッスンズ) 21 世紀の人類のための21 の思考』
ユヴァル・ノア・ハラリ 著/柴田裕之 訳
判型:四六判
価格:本体2,400円+税

 

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