人気YouTuber そわんわん&とどろん、なぜ好感を持てる? 正反対なふたりの共通点とは

そわんわん&とどろんが示す価値観

可愛くなるのは自分のため

 しかし、そわんわんたちの自称はまだ心理的に受け入れられる。彼女の発言にもあったように、ひとりで言って、ひとりで完結しているからだ。そこに人間関係を利用したハラスメントが介在していないからだ。自分のことをどう形容するかを自分で決めることと、他人がいじったり、いじりが期待されているのを受け入れてわざわざ傷つきにいくのとは全然意味が違う。

 そわんわんもとどろんも、他人のためにメイクしているというより、自分が楽しいからやっている。自分を上げるためにやっている。それがいい。

 「他人の目を気にするな。最終的に自分の価値を肯定できるのは自分だけ」というのはYouTuber本には金太郎飴のように必ず書いてあることで、そわんわんやとどろんも例外ではない。

 ただ、本音ベースの発信をしてきたそわんわんが「自分の機嫌は自分でとる!」と言い、とどろんが「自分に自信を持てるようになれば、一人でも二人でも楽しく生きられる。自分は自分だから絶対に裏切らないし、それこそが確実な愛」と語るのは、「メイク動画」といってすぐに連想されるようなタイプの発信者(従来からあった、芸能人やモデルがファッション誌でメイク術を見せることと構造的には変わりない)からのメッセージとは、受け手にもたらす価値が違ってくる。われわれ凡人にとって圧倒的に身近に響く。

 他人が編集した媒体ではなく自分が直接発信する媒体での発信は、SNSが発達するまではここまで可視化され、人々の目に入ることは多くなかった。顔面強者の方がSNS以外のメディアでは優遇されるからだ。そう見えないかもしれないが、そわんわんやとどろんは画期的な存在だと個人的には思っている。

 いまだに「大半のYouTuberはTVに出てないからまだまだ知名度が低い」みたいな化石のようなことを言う人たちがいるが、そわんわんにしろとどろんにしろ、そういう“日本のTV”的な昭和然とした価値体系――いじりで笑いを取る、TVに出たら一人前の有名人、異性にモテるために努力する、ルッキズム、等々――からは決定的に違う場所にいる。

■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。

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