感染症による都市閉鎖と分断を描いた漫画、朱戸アオ『リウーを待ちながら』を再読

感染症を描いた『リウーを待ちながら』

 タイトルの元となったアルベルト・カミュによる小説『ペスト』にも、ペストで大勢が死んだアルジェリアのある街が、大流行を抜け出て平常を取り戻していく様が描かれている。いつか恐ろしい今日が来るとしても、やがて平穏な明日が来るのなら、その明日に気持ちを向けて生きていく。そうしたことが、カミュの『ペスト』や朱戸アオの『リウーを待ちながら』から感じ取れる。

 そして、新型コロナウイルス感染症のパンデミックという事態が起こっている現実の世界でも、自暴自棄にならず、慈しみの中で終息を迎え、再生へと向かうことを願いたくなる。

 もっとも、世間の横走市を見る目は厳しく、外では文字通りの“病原菌”として見做された横走市への無理解と嫌悪が広がっている様子も描かれている。これが新型コロナウイルス感染症でも現実に起こりかけている。中世ヨーロッパよりも、そして『ペスト』に描かれる194X年のアルジェリアよりも情報が発達し、流言が光の速さで伝わる現実の世界だけに、悪意はとてつもなく増幅され、世界中の人の心を染めて分断と対立を生み出そうとしている。

 これは既視感にしてはいけない。肺ペストにも負けず恐ろしい言葉の疫病を防ぐための方策が、病気の封じ込めとともに実行されなくてはならない。

■タニグチリウイチ
愛知県生まれ、書評家・ライター。ライトノベルを中心に『SFマガジン』『ミステリマガジン』で書評を執筆、本の雑誌社『おすすめ文庫王国』でもライトノベルのベスト10を紹介。文庫解説では越谷オサム『いとみち』3部作をすべて担当。小学館の『漫画家本』シリーズに細野不二彦、一ノ関圭、小山ゆうらの作品評を執筆。2019年3月まで勤務していた新聞社ではアニメやゲームの記事を良く手がけ、退職後もアニメや映画の監督インタビュー、エンタメ系イベントのリポートなどを各所に執筆。

■書籍情報
『リウーを待ちながら』1〜3巻(完結)
著者:朱戸アオ
出版社:講談社
https://evening.kodansha.co.jp/c/riumachi.html

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