『ハイキュー!!』の革新的な漫画表現ーー「壁」を乗り越える見開き演出に迫る

『ハイキュー!!』が示したバレーと漫画表現の共通点

清水潔子が壁を乗り越える瞬間

 多様されるこの壁の図式は、次第にバレーボールのシーン以外でも活かされることとなる。最も顕著に見て取れるのは、26巻で描かれるマネージャー・清水潔子のエピソードだ。清水は作品初期から登場し続けるキャラクターだったが、試合に直接関わる役柄ではないので、傍にいながら華を添える程度の描かれ方に留められていた。しかし、ここで初めて清水の内面が紙幅を費やして描かれる。当初は「頼まれたからやり始めた」ことに過ぎず受動的にこなすだけだったマネージャーの仕事だが、最後の大会を目前に自分もチームの一員だと自覚しチームのために能動的に働く意識が明確に芽生えるのだった……。清水が自分の中の壁を乗り越える瞬間を、柵を走って飛び越すというアクションで表現している。そして160ページに描かれている飛び越えるシーンでは、やはり柵という壁は見開きのノドと重なる位置にある。

 再び冒頭のモノローグに戻ろう。

 「目の前に立ちはだかる 高い 高い 壁 その向こうは どんな眺めだろうか。」

 壁に挑む人々を、漫画表現に本来的に備わっている壁を作者本人も乗り越えながら描く『ハイキュー!!』という作品にこれほど相応しいセリフはない。

■秋山ナオト
雑誌&書籍の編集者。『ライムスター宇多丸も唸った人生を変える最強の「自己低発」 低み』を構成&ライティング。『マーベル映画究極批評』(てらさわホーク)、『名探偵コナンと平成』(さやわか)、『暗黒ディズニー入門』(高橋ヨシキ)などを編集。
ツイッター:@Squids_squib

■書籍情報
『ハイキュー!!』
古舘春一 著
価格:440円+税
出版社:集英社
公式サイト

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