浦沢直樹『あさドラ!』は“あまちゃん×シン・ゴジラ×いだてん”? 無茶な物語を成立させる卓越した構成力

浦沢直樹『朝ドラ』の卓越した構成力

 朝ドラ、怪獣、東京オリンピックという三題噺で構成されている『あさドラ!』は、まるで『あまちゃん』(NHK)と『シン・ゴジラ』と大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺』(NHK)という2010年代を代表する三作を足して漫画にしたような無茶な物語だが、浦沢直樹の卓越した構成力によって見事、成立している。

 『MONSTER』、『20世紀少年』(それぞれ小学館)、『BILLY BAT』(講談社)といったスケールの大きな長編漫画の傑作を多数手掛けてきた浦沢直樹は、漫画界きってのストーリーテラーとして高く評価されている。どの作品も複数の時間軸が交差するある種の歴史群像劇で、その意味では、大河ドラマならぬ大河漫画の描き手だと言える。

 同時に浦沢は『YAWARA!』、『Happy!』(ともに小学館)のようなかわいい女の子が活躍するスポーツ漫画も描ける作家で、だからこそ玄人好みの作家性とポップな大衆性を兼ね備えたメジャー漫画家として漫画界に君臨している。

 今回の『あさドラ!』も壮大なストーリーを予感させるが、同時に『YAWARA!』のような親しみやすさもある。このあたりはとても朝ドラ的で、確かに連続漫画小説である。あくまで物語の中心にいるのはアサで、彼女を中心とした各登場人物が魅力的に描かれているのだ。

 とは言え、気になるのは今後の展開である。近年の浦沢作品と較べて展開はゆったりとしており、このペースでいくと一巻冒頭で描かれた2020年の東京オリンピックを、あっさりと追い抜いてしまいそうだが(3巻の巻末予告によると第4巻は2020年秋発売予定)、新型コロナウィルスの世界的流行によって、東京オリンピック自体が延期、あるいは中止となる可能性が出てきたことは、作品にどのような影響を及ぼすのか?

 予見的な作品だっただけに、漫画以上の超展開となりつつある現実をどう打ち返すのかという漫画家・浦沢直樹の戦いにも注目したい。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

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