『おしりたんてい』は“幼児でも楽しめるミステリー” 担当編集者が語る、大ヒットキャラの誕生秘話

『おしりたんてい』編集者インタビュー

『おしりたんてい』が読者に課す謎解きの特徴とは?


――最後の推理パートで読者に謎を解かせる問題を出すことは少なく、ほとんどの場合おしりたんていが推理を開陳していきますよね。これは最後に問いを課して解けないと読者がフラストレーションを感じるからですか?

髙林:やはり犯人がわからないと読者としてはおもしろくないですよね。ですから名探偵が最後に饒舌に謎解きをするというミステリーのフォーマットを踏襲しています。ただ読者が、おしりたんていが語るロジックを読んだあと振り返ってみて「あ、本当にそうだ」と思ってもらえるように破綻なく作っています。徹底するのは大変なのですが、「本には書いていないけど実はおしりたんていが見ていました」は基本的にはしない。

――読者に出す謎解きというか課題の種類についてお聞きしたいのですが、何かを探すものと迷路が多いですよね。知識で答える問題はほとんどありません。子ども向けの本で読者に課す問題と言えば迷路となぞなぞが定番ですが、おしりたんていではなぞなぞもありません。読みものの1冊目を除けば文字を使ったパズル的な問題もありません。これはどういう意図からですか?

髙林:ひとつは、絵本はまだ文字が読めない子も対象読者にしていますから、ビジュアルだけで成立する探し物や迷路を中心にしているということ。「答えがわからないと次のページがめくれない」という問題は設定していないんですね。3択問題も多いですが、3択なら間違えても戻って最大3回やれば必ず次に進めます。

 もうひとつは、子どもがお父さんお母さんに勝つ可能性がある問題の方がいいなと。なぞなぞや言葉遊びだとだいたい大人が勝ちますよね。それに絵探しの方がなぞなぞよりも難易度を上げやすい。なぞなぞだと答えを覚えてしまいますが「おしりを6コさがせ!」だと場所を全部覚えるのは難しいので何回でもできる。絵本は普通なら見開きで1分もかからずめくってしまいますが、トロルさんは何度じっくり見ても楽しい絵を描かれますよね。その絵を活かして、おしりたんていが終盤で「どの時点で気づいたかわかりますか?」と聞いて遡って読み返してもらう。そういうことを仕掛けていきたい。

――「ミステリマガジン」のインタビューによるとトロルさんはお二人ともゲームが好きだそうですね。『おしりたんてい』の謎解きもゲームテイストです。

髙林:多岐にわたってゲームはしているみたいで、ゲームの話はよくします。けっこうマニアックなものもやっているようですが、話を聞いていると世界観がちゃんとあるものが好きみたいですね。ゲームに対してもそういう目線で見ているんでしょうね。

――同じく「ミステリマガジン」のインタビューによると、おしりたんていがクライマックスで必殺技で犯人をやっつけるシーンで突然絵のタッチが劇画調になるのは赤塚不二夫先生が『天才バカボン』で「劇画バカボン」をやっていたことに倣っているとのことでしたが、トロルさんは『バカボン』世代ではないですよね?

髙林:あれは編集部から提案させていただいたんですが、赤塚先生はキャラクターがコマから飛び出しちゃうとか実験的なことをされていましたよね。突然劇画タッチになるのを見て自分が読者としてページをめくるペースを変えられたという体験の記憶があったんです。スローモーションになったような感覚というんですかね。『おしりたんてい』はいかにページをめくらせるか、そのスピードを変化させていくかにこだわっている作品ですから、その手法のひとつとして、一番盛り上がる見せ場で急に劇画になる、ということを選んでいます。たまに「こわい」というご意見もいただきますが、あそこのおもしろさを求めてめくっている子もいるかもしれない。トロルさんはいつも最後にあのシーンを描くので、どう仕上がってくるのかこちらもドキドキしながら楽しみにしているんです。鉄砲みたいに発射するときもあれば、おしりたんていが回転しながら噴射することもありますからね。あそこの毎回の違いもおもしろいところです。

絵本から読みものへ広げたことが大ヒットにつながった

――ポプラ社の編集会議で最初に『おしりたんてい』を出したときの反応はいかがでしたか?

髙林:だいぶ打ち合わせを進めていたので、社内の企画会議にかけるときには完成形が見えていました。見た目のインパクトも含め、好意的な反応でした。ポプラ社には『ズッコケ三人組』や『かいけつゾロリ』をはじめ「子どもが親に買ってもらう本」というより「子どもたちが自分で好きになって買って読んでくれる本」を作っていこうという流れがありますから、そういう意味で苦労した点はなかったですね。

――「小さい子どもは丸いものが好き」とよく言いますが、キャラクターデザインについてトロルさんにオーダーしたことはありますか。

髙林:おしりたんてい自体は完成していたのでほぼありません。覚えているのは、絵本から読み物に移行するときにおしりたんていの顔のアウトラインをはっきり付けてもらいたかった。

――たしかに絵本のおしりたんていは輪郭線がない、または薄いですが、読みものでは黒いアウトラインがあります。絵本と読みものの違い、対象年齢の違いということでしょうか。

髙林:あとは読みものではブラウンが『シャーロック・ホームズ』におけるワトソン的な活躍ができるよう、絵本より成長させてしゃべれるという設定にする点は提案させてもらいました。絵本から読みものに広げる際に設定を固めたことでおはなしの作り方も変わり、それぞれのキャラクターの役割もはっきりして世界観が広がった。絵本の3巻目までも順調には伸びていましたが、読み物の1巻目が出ると売上がぐんと伸びましたね。

――その理由は?

髙林:絵本を読んできてくれた子たちが成長して読みものにもついてきてくれたことと、ミステリーものとして対象年齢を上げた方がやれることのレンジが広がり、よりおもしろくなって小学生の子にも刺さるようになったのが大きかった。10万部を超えるところまではスムーズに到達していきました。プロモーションはほとんど書店店頭での露出を増やすことをメインにポップやノベルティを作るといったもので、そんなに新しいことしたわけではないですが、順調に伸びていった。初版部数では今でも読みものの方が圧倒的です。絵本から読み物にシリーズを広げることはあまりありませんが、ミステリージャンルだからできたのかなと思っています。

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