『映像研には手を出すな!』は“アニメを漫画でやろう”としているーー革新性な手法を考察

『映像研には手を出すな!』の魅力に迫る

『ザ・モーションコミック』との違い

 いずれにせよ、(作者が意図しているのかいないのかはわからないが)これはかなり新しい漫画の形だと思う。そういえば80年代半ばに、「アニメ感覚の新しいコミック」というキャッチコピー入りで何号か出た『ザ・モーションコミック』というアニメーターが描いた漫画を多数掲載した雑誌があったが、同誌の編集部がかつて目指した漫画の形ももしかしたらこれと近いものだったかもしれない。だが残念ながら『ザ・モーションコミック』に載った漫画の数々よりも、大童がいま描いている漫画のほうが圧倒的にクオリティは高い。

 それはなぜかといえば、アニメーションの「動き」そのものに魅せられながらも、大童がキャラを立て(3人の少女のなんと魅力的なことか!)、おもしろい物語を書く能力にも長けている「作家」だからにほかならない。そこが、(言い方は悪いが)単なる絵(もしくは動画)の専門家である『ザ・モーションコミック』の執筆陣と、『映像研には手を出すな!』の作者が違う最大の資質である(ちなみにこういうことを書くと、アニメーターが漫画を描くことに私が否定的な意見を持っていると思われるかもしれないが、そうではなく、むしろ『ザ・モーションコミック』はとてもおもしろい試みだったと思っている。たとえば、同じ版元の別の雑誌に載った、宮崎駿や安彦良和による漫画は問答無用の傑作であり、それはアニメのプロでも物語をきちんと書ける「作家」であれば、おもしろい漫画を描けるということの証明になっている)。

 とにかく、いまの時代に突然こういう(良い意味で)風変りな作品が生まれ、かつ多くの読者を得ているということは、漫画の未来はさほど暗くないといえるだろう(いつの世も本当に新しいものは、少々変わったところから出てくるものである)。一方、連載デビュー作でいきなりブレイクしてしまった大童澄瞳本人は、ある回でヒロインのひとり水崎ツバメにいわせているように、「『私が生きる』ってことは、こういう物をひたすら作るってことなんだ」という気持ちをしみじみと味わっているところかもしれない。最後に蛇足ながら、もしもあなたが漫画やアニメが好きで、万が一この作品を未読のようなら、ぜひ『映像研には手を出すな!』には手を出したほうがいい、ということだけはつけくわえておきたい。

■島田一志(しまだ・かずし)
1969年生まれ。ライター、編集者。『ヤングサンデー』編集部を経て、『九龍』元編集長。近年では小学館の『漫画家本』シリーズを企画。著書・共著に『ワルの漫画術』『漫画家、映画を語る。』『マンガの現在地!』などがある。

■書籍情報
『映像研には手を出すな!』
大童澄瞳 著
価格:607円(税込)
出版社:小学館
公式サイト

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