Web発の注目漫画『マイ・ブロークン・マリコ』が突きつける、生々しい「生」と「死」の明暗対比

『マイ・ブロークン・マリコ』の魅力に迫る

断片的な場面がマリコを際立たせる

 そもそも旅というものにはたいていなんらかの具体的な「目的」があり、人はその道中、一人旅なら「自分」を、ふたり旅なら「相手」のことをより深く考え、知ろうとするものだ。しかし今回のトモヨの旅には明確な目的もなければ話し相手もいない。だから骨壺を抱いた彼女は、自分自身と向き合いながら、思い出の中にいる過去のマリコと「対話」する。

 その、物語の要所要所で挿入されてくる生前のマリコの描写がすばらしい。トモヨの思い出というフィルターがかかっているにもかかわらず、いや、それゆえに、というべきか、いずれにせよ「マリコという可愛くて不幸な女性がかつてこの世界に存在した」という証がリアルに浮かびあがってくる。短い断片的な場面の積み重ねではあるが、こういうキャラの立て方もあるのか、と感心した。

 物語のクライマックス、マリコの骨は、トモヨと一緒に見知らぬ少女を悪漢から救い(どういうことかはぜひ本作を読まれたい)、キラキラと輝きながらどこかへ還っていく。どこへ? それは誰にもわからない。でもひとつだけわかっていることがある。終盤、海辺の町で出会った男がトモヨに、「もういない人に会うには、自分が生きているしかないんじゃないでしょうか」と語りかける場面があるが、まさにそういうことで、トモヨがこの先もマリコのことを「実感」しつづける限り、彼女の存在が世界から消えることはないのだ。そして骨になってどこかへ還っていったマリコは、かつて自らが望んだように、いつの日にかトモヨの子供としてふたたびこの世に生まれてくればいい。次に彼女が出会う世界は、決して彼女を壊したりはしないだろうから。

■島田一志
1969年生まれ。ライター、編集者。『ヤングサンデー』編集部を経て、『九龍』元編集長。近年では小学館の『漫画家本』シリーズを企画。著書・共著に『ワルの漫画術』『漫画家、映画を語る。』『マンガの現在地!』などがある。

■書籍情報
『マイ・ブロークン・マリコ』
平庫ワカ 著
価格:本体650円+税
判型:B6判
公式サイト

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