葛西純自伝『狂猿』連載第2回 勉強も運動もできない、不良でさえもなかった”その他大勢”の少年時代

葛西純自伝『狂猿』連載第2回

デスマッチファイター葛西純 自伝『狂猿』

近所に轟いた「葛西の姉ちゃんはやばい」

 中学に入っても、俺っちのプロレス熱は覚めることはなかった。でも、運悪くというか、周りにプロレス友達がいなくて、独りでプロレスにのめり込む状況は変わらなかった。中学ではサッカー部に入った。特にやりたかったわけじゃなく、小学校4年生から課外のサッカークラブに入ってたから、その流れでやってみただけだね。

 ウチの地元では、小学生男子が入れるクラブが「サッカー部」か「野球部」しかなくて、どっちをやるかって言われたんだけど、野球は全日本プロレスのテレビ中継の時間を何度もズラされた恨みがあるから、野球はイヤだと。それでサッカーを選んだ。好きでやってたわけでもなかったから、上手になることもなく、ずっと補欠だった。試合とかにもまったく出れなかった。それでも練習は厳しかったね。今みたいにスポーツのトレーニング理論みたいなのが無い時代だから、とにかく走り込みをやらされたり、練習中に水を飲むのはご法度みたいな環境でね。おかげで持久力はついたような気がする。プロレスラーになってからも、わりとスタミナはあるほうだって言われるんだけど、このときに鍛えたベースが役立ってるのかなっていうのはあるね。

 ただ部活でイヤだったのが、先輩・後輩のタテ社会だよね。当時の俺っちは、流されるタイプだったから、たまに先輩や仲間からイジられることがあってね。練習してて何かヘマをすると、同学年の友達から「おい、葛西しっかりしろよ!」とかドヤされるわけだよ。そんなことが何回かあったんだけど、あるときいつものようにイジられてたら、サッカー部の先輩がバーっと寄ってきて「おい、お前ら葛西のこといじめるなよ。こいつの姉ちゃん怖いんだから」って、すげぇビビって止めてきたんだよ。姉ちゃんとは同じ中学で、俺っちが中1のときに姉ちゃんは中3。だけど、姉ちゃんは中学入ってからグレはじめて、中3のころにはバリバリのヤンキーになってたんだよ。もう見た目からして普通じゃなくて、髪の毛はもう黄色になるくらいに脱色してて、長ーいスカート履いて、カバンもぺったんこ。ご近所でも「葛西の姉ちゃんはやばい」って、知れ渡ってるくらいだった。

 俺が中2に進学するときに、姉ちゃんは高校に入ったんだけど、入学した初日に3年生の先輩と廊下で取っ組み合いの喧嘩したらしい。それで高校1年の冬ぐらいでもう学校辞めちゃうんだけど、その間際に担任の先生がうちに来て、泣きながら「親御さんから学校やめるように言ってやってください」って訴えてきてね。何があったのか、恐ろしくて聞けなかったよ。まぁ、姉ちゃんの名誉のためにいっておくけど、いま思えばあの頃の姉ちゃんは単なる反抗期で、ハタチを超えるころには落ち着いていった。いまはちゃんと普通に生活してるよ。そんな筋金入りの姉がいたせいか、俺っちはグレることもなく、静かに中学生活を送ってた。ちょっとズボンを太くするとかはしたけど、ファッション不良で、悪いこともしなかった。

突然エロに目覚める

 とにかく家に帰れば親と姉ちゃんが喧嘩してたから、自分が反抗期になる時間がなかったんだよね。親からも、ちょっと放っておかれてるような感覚はあって、それは少し寂しくもあった。そのぶん独りでプロレスのことを考えてたね。ただ、俺っちも中学生くらいになってくると、プロレス以外にも興味がでてくることがあった。中学1年の冬ぐらいだったかな。急にエロに目覚めたんだよ。近所のビデオ屋のチラシに載ってたAVのパッケージ写真が気になって、こそこそ集めて眺めたりとか。あとは姉ちゃんが「なんとかティーン」みたいな、女の子の体験談が載ったような雑誌を読んでたから、それをこそっと忍び込んで読んだりね。でも、だんだん物足りなくなって、とにかくエロ本をゲットしたいという衝動に駆られるようになった。それで意を決して、休みの日の朝イチに起きて、本屋にエロい本を買いに行ったわけだよ。でも、まだウブだから、いきなりエロ本コーナーに行けるわけもなく、色々と興味のない本とかも見たりして、店内を行ったりきたりしてね。最終的にパっと手に取ったエロ本をプロレス雑誌でサンドイッチしてレジに向かうんだよ。

 もう表紙のわずかな情報だけでパっと手に取るから、ハズレを引くこともあってね。そんなことを何回か繰り返してたんだけど、ある日、いつものごとくあんまり見ないで買って、家に帰ってきて、さぁどんなエロ本なんだろうと思って開いてみたら、なんか洋ピン系の、すごい巨乳のお姉さんばっかり載ってるやつだったんだよね。それがなんか強烈すぎたというか、獣みたいな勢いに圧倒されてしまって「俺はなんていうエロ本を買ってしまったんだ」ってすごい罪悪感に駆られてね。その日の深夜、こっそり家を抜け出して、自転車に乗って遠くの森までそのエロ本を捨てにいったよ。あれも震えるような体験だったね。

(文=葛西純/構成=大谷弦/写真=高橋慶佑)

■葛西純(かさい じゅん)
プロレスリングFREEDOMS所属。1974年9月9日生まれ。血液型=AB型、身長=173.5cm、体重=91.5kg。1998年8月23日、大阪・鶴見緑地花博公園広場、vs谷口剛司でデビュー。得意技はパールハーバースプラッシュ、垂直落下式リバースタイガードライバー、スティミュレイション。
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