呉勝浩が語る、新作『スワン』で“銃乱射事件”を描いた理由 「乗り越えられない悲劇に向き合いたかった」

呉勝浩が語る、銃乱射事件描いた理由

予期せぬ事故や事件に巻き込まれる恐怖

――呉さんの作品を読んでいると、「予期しない事故や事件」に対する恐怖を、いつも考えているんだろうなと感じます。

呉:僕は臆病な人間なんです。自分が将来、家を買ったとして隣にヤバい奴が後から引っ越してきたらどうしようとか、家を買う前から考えちゃいます。常日頃、こんなこと考えてたら鬱になるんじゃないかと思いますよ。だから読む人によっては「嫌だ」となるんでしょうね。本当は食べ物と猫の話を書きたいんですけどね(笑)。

――今回、事件やその後のマスコミのこと、主人公が抱える不幸など、様々な要素が詰まっていますが、最も描きたかったことはなんでしょうか?

呉:やはり主人公ですね。ネットバッシングや暴力などいろいろと出てきますが、僕はそれらを批判するのではなく、現状あるものという捉え方をしています。それに見舞われた主人公が、どう抗うかを描きたかったんです。フィクションなら勝つこともできるけど、簡単にそうしてしまうのも嫌だった。勝たなくてもいいから抗って欲しくて。主人公が選んだその方法は世のなかで認められるものじゃないかもしれないけど、否定したくなかったんですよね。開きなおるのでもなく、葛藤を抱えたままの姿を描きたかった。最後のほうの、あるセリフには、そうした感情が出ているかもしれません。綺麗事に思える読者もいるでしょう。でも、あのセリフだけは譲れなかった。あのシーンはセリフを含めて書けて嬉しかったです。
(取材・文=佐々木康晴/撮影=高橋慶佑)


■呉 勝浩(ご かつひろ)
1981年青森県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒業。2015年『道徳の時間』で第61回江戸川乱歩賞を受賞し、デビュー。18年には『白い衝動』で第20回大藪春彦賞を受賞した。他にも吉川英治文学新人賞、山本周五郎賞、日本推理作家協会賞の候補になるなど、話題作を発表し続けている。著書に『ライオン・ブルー』『ロスト』『蜃気楼の犬』『マトリョーシカ・ブラッド』『雛口依子の最低な落下とやけくそキャノンボール』『バッドビート』がある。

■書籍情報
『スワン』
価格:本体1,700円+税
判型:四六変形判
出版社:KADOKAWA
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