『進撃の巨人』は差別と革命を題材にした政治劇だーークライマックス目前、壮大な物語を振り返る

『進撃の巨人』の流れを振り返る

 ここから『進撃の巨人』は民族差別に抗い、いかにして自由と尊厳を取り戻すのか、という血塗られた歴史劇としての本質が露わとなる。中心にあるのはあくまで謎に満ちた巨人の力であり「座標」と呼ばれる巨人の力の争奪戦だが、根幹にあるのは民族差別と政治権力をめぐる階級闘争の歴史なのだ。

 ダークファンタジーとは言え、ここまで残酷描写が盛りだくさんの、差別と革命を題材にした複雑な政治劇が、少年漫画として大ベストセラーとなっていることに改めて驚かされる。だが一方で、『進撃の巨人』は戦後の少年漫画の伝統をもっとも継承した作品だとも感じる。 

 圧倒的な怪物(巨人)に捕食され、人類が無差別に殺されていく恐怖を描いたという意味では、楳図かずおの『漂流教室』。悪(巨人)から生まれたヒーローの苦悩というモチーフは、石ノ森章太郎の『サイボーグ009』から永井豪の『デビルマン』を経て、近年の芥見下々の『呪術廻戦』や藤本タツキの『チェンソーマン』等にも脈々と引き継がれているものである。そして、作品の根底に流れる身体の痛みに訴える感触と泥臭い青春譚は、漫画原作者の梶原一騎が手掛けた『巨人の星』(作画:川崎のぼる)や『あしたのジョー』(作画:ちばてつや)などの伝統を受け継いでいる。他にも巨大ヒーローモノという観点では、特撮ドラマ『ウルトラマン』やアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』を連想させ、まるでエレンが巨人の力を継承するかのように諫山創は少年漫画、アニメ、特撮が描いてきた戦後日本の課題を継承し、その最新型を提示しているのだ。

 この30巻では、巨人誕生の始まりである始祖・ユミルが登場し、ついにエレンが「座標」を手に入れ“地ならし”を発動させる。ついに終わりが見えてきた『進撃の巨人』はどこに着地するのか。今は1話1話がクライマックスである。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■漫画情報
『進撃の巨人』30巻
著:諫山創
発売:2019年12月9日
価格定価:本体450円(税別)
版元:講談社

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