スロージャーナリズムが人々をデジタル疲れから救う? 『デジタル・ミニマリスト』の提案

デジタル疲れに“スロージャーナリズム”を
松本一弥『ディープフェイクと闘う 「スロージャーナリズム」の時代』(朝日新聞出版)

 また、本書でも触れている『De Correspondent』(英語版)もスローメディアの代表格だ。同誌もまた、「Breaking News」(いま入ったばかりのニュース)とは対立するかたちで、「Unbreaking News」(最新じゃないニュース)を報道する。『ディープフェイクと闘う 「スロージャーナリズム」の時代』(朝日新聞出版)によると、同誌は「物事の背景にある出来事や歴史的経緯など、そのニュース本来の意味にフォーカスして深い解説を加えることで内容を充実」させているとのこと。そして、そのような報道スタイルは、「日々押し寄せるニュースから置いてけぼりになりかけている読者を救済しよう」という挑戦でもあるのだ。

 スローメディアには更新頻度、メディアの規模、テクノロジー形態、収益構造(上記2つは有料制)などによって様々なかたちがある。しかし、速報で消耗する状況を改善できる余地はある、という強い信念は共通しているといえよう。

 様々な手段で注意を引きつけるアテンション・エコノミーによって、人々の注意が細切れで衝動的になっている昨今だが、スロージャーナリズムは主体的に情報を選択し、テキストに深く集中する習慣をよみがえらせる可能性がある。結果として、人々は情報の洪水による疲労感からも解放されるかもしれない。ちなみに、『De Correspondent』は月額1ドルからの投げ銭制だ。海外メディアだが、機械翻訳をつかえば大意はつかめるだろう。新しい報道のかたちとして、一読してみてはどうだろうか。

 日本でもまた、スロージャーナリズムは台頭しつつある。スマートニュースは今年6月に「調査報道とそれを支えるジャーナリストやメディアの活性化」を目的として、子会社「スローニュース株式会社」の設立を発表した。インターネット以降、費用や時間の問題から取り組むことが困難になった調査報道も、スロージャーナリズムによって復活する可能性があるのだ。

 『デジタル・ミニマリスト 本当に大切なことに集中する』では他にも、「スマートフォンを置いて外に出る」、「“いいね”をしない」、「対面での会話を取り戻す」など、デジタル片づけの例を多数提案している。デジタルツールとの関わりを見つめ直すきっかけが欲しい方にはうってつけの一冊といえるだろう。

(文=梅澤亮介)

■書籍情報
『デジタル・ミニマリスト 本当に大切なことに集中する』
カル・ニューポート 著
価格:1,980円(税込)
発売/発行:早川書房

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