小説『蜜蜂と遠雷』は“音楽の感動”を言葉にする スピンオフ『祝福と予感』で広がる恩田陸の世界

『祝福と予感』で広がる恩田陸の世界

 ちなみに、冒頭に挙げた「獅子と芍薬」の一節は、共にまだ10代だった頃、ミュンヘンで行われたピアノコンクールで、ナサニエルが初めて三枝子のピアノ演奏を聴いたときの衝撃を描いたものである。そう、素晴らしい音楽は、人を感動させるだけではなく、その人自身を何らかの行動へと駆り立てるのだ(彼らがその後、恋に落ち、結婚に至ったことは、小説版の読者ならば知っていることだ)。「また彼らに、会える。」という本書のコピーは、いみじくも本作の醍醐味を表していると言えるだろう。映画版には登場しなかった、亜夜の姉的な存在であり、よき理解者でもある“奏”の物語「鈴蘭と階段」もあるけれど、小説版の世界を大いに堪能した人はもちろん、映画しか観ていないという人も十分に楽しむことができるであろう、理想的なスピンオフ短編小説集だ。

■麦倉正樹
ライター/インタビュアー/編集者。「smart」「サイゾー」「AERA」「CINRA.NET」ほかで、映画、音楽、その他に関するインタビュー/コラム/対談記事を執筆。

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