DU BOOKS編集長に訊く、”濃すぎる”音楽書を作り続ける理由

DU BOOKS編集長が語る、独自の音楽書作り

「海外では、あらゆるミュージシャンが自伝を出している」

ーー「33 1/1」シリーズの話が出ましたが、音楽書全般ということで言うと、最近はどんな傾向があると見ていますか?

ソーレン・ベイカー『ギャングスター・ラップの歴史 スクーリー・Dからケンドリック・ラマーまで』

稲葉:『カニエ・ウェスト論』や、9月末に発売したばかりの『ギャングスター・ラップの歴史』もそうですが、やはりヒップホップ関連の書籍の需要は高まっていると思います。ディスクユニオンもヒップホップ文化と密に関わっているので、我々も盛り上げていきたいです。ディスクガイドに関しては、今後は新譜のディスクガイドが求められるのかなと。ストリーミングが浸透してきたことによって、あらゆる新譜が聴けるようになりましたが、途方もない数なのでなにかしらのガイドは必要ですよね。柳樂光隆さんの『Jazz The New Chapter』(シンコー・ミュージックMOOK)シリーズなどは、新譜の聴き方にひとつの視座を与えたものだったと思います。彼もユニオンで働いていたことがありましたね。『シティ・ソウル ディスクガイド シティ・ポップと楽しむ、ソウル、AOR & ブルー・アイド・ソウル』(2018年)でも、新譜のページを面白がってくれる方が多かったです。

ーーインターネットで新譜の情報は常に出ていますが、Webの特性上、体系的に読むのは難しくて、数年も経つと検索するのが困難になったりします。その意味でも、紙の本でディスクガイドを作る意義はありそうです。海外の音楽書にはどんな傾向がありますか?

稲葉:なんと言ってもアーティストの自伝が大量に出版されています。ブームと言っても良いほどです。エルヴィス・コステロ、ワム!のアンドリュー・リッジリー、ベン・ワット、プリンス、ランDMC、ウータン・クラン……大物からマニアックな人物まで、ありとあらゆるミュージシャンが自伝やインタビュー集などを出しています。アーティストの作品を鑑賞する上での副読本として売れているという部分ももちろんあると思いますが、ようやくアーティストも正直に話せるムードになってきたという時代の流れもあるのかもしれません。あと、音源が売れないという経済的な理由で出しているケースも多いでしょうね。サイン会の全米ツアーとかやっていますし。それらの本は英語圏で幅広く販売できるので、ニッチな内容でも収益化できるという理由もありそうです。とはいえ、ポピュラー音楽の書籍に関しては日本が一番、充実しているように感じています。ヒップホップにしてもジャズにしてもロックにしても、日本人にとっては輸入文化ですし、勉強熱心な日本人の音楽ファンは活字を通して音楽を知りたいという欲求がどの国よりも強いような気がします。

ーー今後、DU BOOKSとしてはどんなビジョンを抱いていますか。

稲葉:音楽書を読む文化をもっと広げていきたいですね。ポピュラー音楽の書籍がこれほど充実している国は他にないくらいなのに、書店では店舗の奥の方の棚に並ぶのが常で、そもそも音楽書の棚がない書店もあります。音楽書は専門性が高いと感じる方も少なくないとは思いますが、マニアではなくても楽しめる本もありますし、本によって音楽の聴き方が変わることもあるので、ぜひ多くの方に手に取っていただきたいと考えています。そのためにも、書店の音楽書コーナー自体を盛り上げることが大事だと思っていて、DU BOOKSではリットーミュージックさんやアルテスパブリッシングさんと組んで、フェアを行ったりしています。リアルサウンドさんも、今度ぜひ一緒にフェアをやりましょう。

(取材・文=松田広宣)

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