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ランシドのティムの奥方=ブロディ率いるバンドとして、パンク・ロック界に彗星のごとくに現れたバンド、ディスティラーズ。ブロディの女とは思えぬほどに低くしゃがれた声で歌われる、その泥臭いハードコア・パンクは、男性にコンプレックスを抱く女子や、力強い女性に憧れるナヨナヨ優男ならずとも、いち目おくものであった。彼らの1stアルバム『ディスティラーズ』はティムによるレーベル<HELLCAT>からリリースされた。表現活動での独立した関係を主張しつつも、やはりそこにはティムの、奥方の活動への深い理解と支えがあったと考えるのが自然だろう。夫婦仲のよさはパンク・ロック界では誰もが知るところであり、この例えはどうかと思うが、現代のシド&ナンシーという声もあった。ブロディはインタヴューにおいて、「パンクは私の人生そのものよ」と答えたという。
それが突如の不倫。離婚。今度はロック・ミュージシャンに乗り換え、もしくは乗られ換え、3rdアルバム『コーラル・ファング』では、“人生そのもの”であったはずのパンクには必ずしもこだわらず、新恋人の影響も見られるロック・チューンを展開した。当然のことながら、彼女をリアル・パンクスと信じていたパンクスたちは激高。そしてティムは傷心し、「トロピカル・ロンドン」なる彼女の故郷メルボルンにちなんだ曲を作るという体たらくとなった。そんな影響か、ランシドの6枚目のアルバムの出来は今ひとつ。そしてまったく不条理なことに、『コーラル・ファング』は各紙から高い評価を得た。
しかしこれは、ある意味で自然な成りゆきであった。なぜなら、彼女は並々ならぬ決意で、前を向いて歩んできたからである。彼女にとって、当初はパンクが必要であり、ダンナの助けも受けた。そしていつの間にかパンクが表現の足枷になったため、そこから離れ、新たな道を歩むため、ダンナとも別れたのだ。より安全で、保身的な立場を考えた場合、パンク界のスーパースターの妻、そしてスーパースターの妻のバンドを冠している方が、楽に決まっている。新たな道を歩むに至るほどの衝動が、『コーラル・ファング』には詰められているのである。

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