クレナズム、原点回帰となった新曲「さよならを言えたかな」 多彩な音楽性を活動と共に辿る

クレナズム、多彩な音楽性を辿る

 “シューゲイザー×J-POP”を軸にした多彩な音楽性、そして、ボーカル・萌映(Vo/Gt)の表情豊かなボーカルによって注目を集めているクレナズム。昨年11月に初のフルアルバム『日々は季節をめくって』をリリース、そして、萌映が俳優として出演した映画『ふたりの傷跡』の同名主題歌と劇伴を担当するなど、活動の幅を広げ続けている。

 リアルサウンドでは、萌映、しゅうた(Dr)にインタビュー。2022年の活動、ライブに対するスタンスの変化、海外での活動に向けた意識、そして、“クレナズム流の春ソング”と称すべき新曲「さよならを言えたかな」の制作などについて聞いた。(森朋之)

歌を届けることがいちばん大事

ーーまずは昨年11月にリリースした1stフルアルバム『日々は季節をめくって』について聞かせてください。クレナズムの多彩な音楽性が込められたアルバムだと思いますが、萌映さん、しゅうたさんはどう位置付けていますか?

萌映:クレナズムとして活動を始めてからの4年間でやってきたことを詰め込んだ1枚なのかな。学んだことだったり……。

しゅうた:それぞれがやりたいことだったり。“シューゲイザー×J-POP”を掲げて始まったバンドなんですけど、シューゲイザーがルーツなのは、実はギターのけんじろうだけなんですよ。メンバーそれぞれが好きな音楽を組み込んだり、ときにはトレンドを意識することもあって。音楽的にもいろんなことをやれたアルバムだと思います。

ーーメンバー全員が作詞・作曲しているのも、クレナズムの多様性につながっていると思います。去年は「メンバー全員、10日に1曲のペースで曲を作る」ということをやっていたそうですね。

しゅうた:はい。けっこうきつかったです。

萌映:(笑)。合計すると1カ月で12曲ですね。

しゅうた:おかげでデモ曲がいっぱいたまりました。作った人の名前がわからないようにして、全曲、番号を付けてたんですよ。まあ、それぞれに癖があるので、聴けばわかるんですけど。

萌映:「このメロディは〇〇だな」って(笑)。

ーーバンド内コンペみたいな状態なんですね。それを続けることで、全員の作曲スキルも上がりそう。

萌映:そうだと思います。初期の頃は高いキーで歌うことが多かったんですけど、最近はそれだけじゃなくて、私の声がきれいに響くキーやメロディを探すようになってきて。「このキーはどうかな?」って相談することも多いし、少しずつ幅も広がってますね。

しゅうた:うん。クレナズムは歌モノのバンドだし、歌を届けることがいちばん大事で。そのためには萌映ちゃんの声を活かすことが必要なんですよね。曲を作るときも、「自分の理想のこのメロディなんだけど、萌映ちゃんの歌声にはこっちのほうがいいな」って修正することが多くなってます。

ーーシンガーとしての表現の幅も広がりそうですね。

萌映:そうですね。歌録りのときは、曲を作ったメンバーとやり取りして。

しゅうた:作曲者がボーカルのディレクションを担当することが多いんですよ。「もっと元気に歌って」みたいに言われることもあるし、大変だなって(笑)。

萌映:レコーディング前日に「やっぱりこんなふうに歌ってほしい」って言われて、「え、今?」とか(笑)。

しゅうた:僕はあまり細かいことは言わないですね。萌映ちゃんとは感性が近いと思ってるし、自分の想像よりも上手く表現してくれるので。ただ、ピッチにはうるさいかも。

萌映:たまにイラッとします(笑)。

ーーアルバムには、「SAKURAドロップス」(宇多田ヒカル)のカバーも収録。宇多田さんの音楽は萌映のルーツの一つだとか。

萌映:はい。ラジオ番組の企画でカバーすることになって、「SAKURAドロップス」をカバーを選曲させてもらって。大好きな曲だからこそ、自分の声とこのバンドのサウンドでどう構築するかすごく考えて。原曲に縛られ過ぎるのも違うというか、自分たちの味も出したくて……かなり葛藤してましたね。編曲はしゅうたくんがメインでやってくれたんですよ。

しゅうた:僕も宇多田ヒカルさんが大好きで。選曲するときに萌映ちゃんと一緒に曲を挙げたんですけど、「SAKURAドロップス」は二人とも上位で、すぐに「これにしよう」ということになって。ただ、アレンジは難しかったですね。宇多田さんはブラックミュージックがベースだと思うんですけど、シューゲイザーとは真逆じゃないですか。どうやって僕たちの音に落とし込めばいいか考えて、ギターサウンドのなかにR&B、ヒップホップの要素も入れて。

SAKURAドロップス

ーーなるほど。萌映さんのボーカルの表現も含めて、クレナズムの個性と原曲へのリスペクトが同時に感じられるカバーですよね。「二人の答え」は、クボタカイさんとのコラボ曲。クボタカイさんとのコラボレーションは、「解けない駆け引き」に続き2曲目ですね

萌映:クレナズムがラッパーのクボタカイさんと一緒にやるって、なかなか想像できないと思うんですけど、それがいいなって。たとえば韻の踏み方だったり、自分たちにはないアイデアをバンバン出してくれるのも面白くて。

しゅうた:うん。編曲の方(ボカロPの100回嘔吐)にも入ってもらったんですけど、アレンジや楽曲の展開に関する提案も勉強になりました。

クレナズム クボタカイ『二人の答え』culenasm kubotakai

ーーTikTokでも話題になった「明日には振り向いてよ」は、J-POPシーンで活躍する若田部誠さんがアレンジ。外部のクリエイターやアーティストとも積極的に関わっていますよね。

しゅうた:若田部さんは秋元康さんプロデュースの坂道シリーズの楽曲なども手がけていて。とにかくいろんな音楽の要素を取り入れたいんです。

クレナズム『明日には振り向いてよ』culenasm 『ashitanihahurimuiteyo』(Official Music Video)

ーーお二人はリスナーとしてもいろんな音楽を聴いてるんですか?

萌映:自分で言うのもアレですけど、けっこう幅広く聴いていると思います。アイドルソング、特にハロプロが大好きなんですよ。つんく♂さんの作る曲や歌詞の世界観に魅力を感じていて、カラオケに行ったら絶対に歌います(笑)。アニソン、ボカロ系も聴きますね。

しゅうた:僕は洋楽の最先端というか、ヒット曲を聴くことが多いですね。新しい音楽がどんどん出てくるし、カッコいい曲も多いので。日々、勉強です(笑)。萌映ちゃん、けんじろうはディープな洋楽も聴いてるので、それぞれが好きな要素を上手く混ぜられたらなと。

ーー昨年12月には、映画『ふたりの傷跡』の主題歌「ふたりの傷跡」をリリース。さらに映画の劇伴も担当しました。

しゅうた:主題歌はけんじろうが書き下ろしました。劇伴は、このバンドを始めた当初から「いつかやってみたい」と思っていたので、うれしかったですね。「この30秒の映像にどんな音楽がふわさしいか」をみんなで模索して、全力で取り組みました。

ーー萌映さんは役者として映画に出演。演技にも興味があったんですか?

萌映:いえいえ。映画の主題歌はやりたいと思っていたんですけど、演技はまったくの未経験だったし、出演のお話をいただいたときは正直、「私で大丈夫かな」という不安がほとんどでした。でも、表現すること自体はずっと大好きなので、すごくいい経験になりましたね。

ーー自分たちで主題歌と劇伴を制作し、メンバーが出演している映画を観たときはどう感じました?

しゅうた:映画館のスピーカーで自分たちの音楽が流れたときはすごく感動しました。萌映ちゃんが出演していることについては、ちょっと照れちゃう感じもありましたね(笑)。

萌映:(笑)。最初に観たときは「こうしたほうがよかったかな」って反省点を考えてしまったんですけど、3回目、4回目くらいはかなり客観的に観られるようになって。いい作品だし、配信されるといいなと思ってます。

クレナズム『ふたりの傷跡』culenasm 『hutarinokizuato』映画『ふたりの傷跡』主題歌(Official Audio)

ーーライブについても聞かせてください。昨年はかなりライブの数も増えたと思いますが、ステージに立って、観客と向き合ううえで、意識の変化はありましたか?

しゅうた:すごく変わりましたね。結成当初のライブは、自分たちが気持ちよくなれたらいいというか……。

萌映:かなり独りよがりでしたね。

しゅうた:うん。お客さんのほうじゃなくて、下ばっかり見ていて。まさにシューゲイザーって感じだったんですけど(笑)、ライブを続けるなかで、「自分たちが音楽を続けられるのは聴いてくれる人たちのおかげだな」という思いがどんどん強くなって。どんなふうに観てもらってもいいんですが、拍手してくれたり、手を挙げてくれたり、笑ってくれたり、みなさんが反応してくれると嬉しいんですよね、やっぱり。

萌映:目が合うと笑ってくれるんですよ(笑)。オンラインの配信ライブしかできなかった時期もあったんですけど、お客さんの前でライブをやれるようになって、「会場に来てくれた人が目の前にいるって、すごくありがたいな」って。

しゅうた:最近はもっと強く届けられるライブを意識するようになりました。自分たちから煽ること増えたし、だいぶ変わりましたね。

萌映:そうだね。自分がお客さんを煽ってる姿なんてぜんぜん想像できなかったんですけどね、前は。コロナ禍を経て、私自身も「お客さんに届く演奏をしたい」という気持ちが強くなって。「こうしたらもっと喜んでくれるかな」みたいなことも考えるようになりました。

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