ドクター・ドレー『The Chronic』はいかにヒップホップの歴史を変えたのか? 再配信を機に振り返る、新たな音像&憧れの確立

 1992年の12月15日にDeath Row Recordsからリリースされたドクター・ドレーのソロデビューアルバム『The Chronic』。昨年末に30周年を迎えたこのアルバムは、ヒップホップ史において最もインパクトがあったアルバムの一枚と言っても過言ではない。

 2022年の2月にはスヌープ・ドッグが、ドクター・ドレー、2パック、Tha Dogg Poundなどの古巣であるDeath Row Recordsを買収。レーベル専用のストリーミングサービスをローンチするという理由で『The Chronic』や『Doggystyle』(スヌープ・ドッグ)などのアルバムを配信停止していたのだが、先月SpotifyやApple Musicなどのサービスにて『The Chronic』が再リリースされ話題になっている。

 ドクター・ドレーは同作にて、ヒップホップというジャンルのテンポ感を大幅に下げることにより、さらに重いサウンドを追求した。それまでのヒップホップに多かったジャズ、ソウル、ディスコのサンプルだけではなく、ジョージ・クリントン率いるParliamentとFunkadelicのサンプル、そしてOhio Players「Funky Worm」へのリスペクトを感じる高音シンセメロディで、Gファンクというジャンルを確立していった。『The Chronic』がリリースされてから数年間、特にアメリカ西海岸では『The Chronic』を意識した作品が多くリリースされ、570万枚を売り上げたという意味でも、ヒップホップの流行りとランドスケープを変えた大ヒット作と言える。

 また、ドクター・ドレーは『The Chronic』にて、直接レコードをサンプリングするだけではなく、楽器の生演奏を取り入れることにより、それまでのヒップホップにはないサウンドクオリティを実現した。Interscope Recordsの創業者であり、ドクター・ドレーの長年のビジネスパートナーでもあるジミー・アイオヴィンは、初めて『The Chronic』を聴いたときにあまりにも洗練されたエンジニアリングに驚かされたと、ドキュメンタリー『The Defiant Ones』(HBO)にて発言している。ドクター・ドレーが自身で『The Chronic』のプロデュースだけではなく、レコーディングエンジニアも務めたことを知ったジミー・アイオヴィンは、ドクター・ドレーがInterscope Recordsを背負うアーティストになると確信したようだ(※1)。

『第65回グラミー賞』でのドクター・ドレー

 1曲目の「The Chronic (Intro)」では、定番サンプルであるThe Honeydrippers「Impeach The President」のドラムブレイクと、Ohio Players「Funky Worm」をサンプリングした高音シンセからアルバムが始まる。ドクター・ドレーが義理の兄弟であるウォーレン・Gから紹介された若きスヌープ・ドッグ(当時はスヌープ・ドギー・ドッグ)が、ソロでイージー・Eなどをディスるイントロとなっている。『The Chronic』には、デビューアルバムをリリースする前のスヌープ・ドッグが多くの曲で参加しており、世界的スーパースターを世に輩出したアルバムとしての功績も大きい。新しい環境のなか、新しいパートナーがアルバムの先陣を切るという意味でも、“新時代”の到来を感じさせるイントロとなっている。

Dr. Dre - The Chronic (Intro) [Official Audio]

 2曲目「Fuck wit Dre Day (And Everybody’s Celebratin’)」では、Funkadelic「 (Not Just) Knee Deep」のベースラインが大幅にテンポダウンされた状態で使用されており、Gファンク時代の到来を感じさせるヘヴィさを演出している。こちらの楽曲でも元N.W.A.メンバーのイージー・Eや、Ruthless Recordsを痛烈にディスっており、スヌープ・ドッグと交互にラップをしていくスタイルが印象的だ。

Dr. Dre - Fuck Wit Dre Day (And Everybody's Celebratin') [Official Music Video]

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