賛否両論あった『第73回NHK紅白歌合戦』 氷川きよし、SEKAI NO OWARI、Vaundy、TWICEら新旧世代が知らしめた“時代性”

 世帯視聴率が歴代ワースト2位、若者に迎合しすぎ……とネガティブな報道や感想も少なくなかった『第73回NHK紅白歌合戦』。ただ今回は「時代性」に着眼点が絞られており、筆者個人は全編にわたり語りどころが尽きなかった放送回だったととらえている。

 2022年下半期からなぜか、テレビ番組はZ世代と平成・昭和世代の価値観やカルチャーを比較するものが急増した。年末年始は特にその傾向は強く、2023年1月5日にいたっては『クイズ!ドレミファドン 2023冬 ドラマ&新番組の豪華出演者が激突!新春3時間SP』(フジテレビ系)と『ニンチド調査ショー 2時間SP 【全世代一斉調査!世代別“究極のラブソング”】』(テレビ朝日系)という世代別の認知度を試すような歌番組が競合する“珍事”が起きたほど。『第73回紅白歌合戦』もどこか、その流れに近いムードを感じることができたのだ(もちろんそれは決して否定的な意味ではない)。

氷川きよし、鈴木雅之らから感じた「時代性」というテーマ

 「若大将」こと加山雄三が今回の『紅白』をもってラストステージとし、桑田佳祐、佐野元春、Char、世良公則、野口五郎の60代5人は「時代遅れのRock'n'Roll Band」を演奏し、松任谷由実はAI技術によって再現された50年前の自分=荒井由実と共演した。それらはいずれも「時代性」をあらわすものだった。

 なかでも印象に残ったのが、氷川きよしである。氷川は、歌手活動休養前の最後のステージに今回の『紅白』を選択。番組では22年連続出場の偉業を讃えるため、アーカイブ映像を流した。2000年に「箱根八里の半次郎」で演歌歌手としてデビュー。当時23歳の頃のVTRにはじまり、年々、パフォーマンスや歌唱力がスケールアップするところが映し出された。そして、2022年10月14日のInstagramで「本当の自分のアイデンティティにリセットしながら音楽を続けていきたい」と投稿したように、時代の移り変わりとともに、氷川がさまざまな模索をしながら歩んできたことが改めて感じとれた(※1)。今回のステージでは不死鳥のような乗りもののうえで熱唱した氷川。「また必ず帰ってきます」というメッセージは、自分自身の手で「時代」を進めようという宣言にも聞こえた。

 『紅白』直前に戦友を亡くしたばかりでありながら、気丈かつ感動的な演奏を見せたのが安全地帯だ。2022年12月17日にドラマーの田中裕二が65歳で逝去。バンド自体、37年ぶりの『紅白』出場とあって、闘病していた田中さんにその姿を見てもらいたかったはず。メドレーの1曲目に披露した「メロディー」は〈あの頃はなにもなくて それだって楽しくやったよ〉とかつての時代に想いを馳せる曲。玉置浩二の情感豊かな歌唱姿からは、田中さんのことを思い浮かべずにはいられなかった。安全地帯のパフォーマンスもまた過去と現在、そしてその先の生き方について考えさせられた。

 一方で郷ひろみ、鈴木雅之は「老い」を突き放すようなステージングだった。郷は1972年の「男の子女の子」、1978年の「林檎殺人事件」、1999年の「GOLDFINGER’99」、2022年の「ジャンケンポンGO!!」という昭和、平成、令和にリリースした楽曲を歌ったばかりか、SEKAI NO OWARIのパフォーマンスにも“飛び入り”するなど大ハッスル。鈴木はTikTokなどで流行した1994年発表曲「違う、そうじゃない」を歌い、SNSでは「本家来た!」「フルで初めて聴いた」など若者を中心に興奮の声があがった。どちらも、楽曲の受け取られ方というのは「時代」によって変わるものであり、曲本来が持っているメッセージが大きく変容するかもしれないが、音楽においてはそれがもっとも面白いことなのだと思わせてくれた。なにより、見た目的なゴージャス感に重点が置かれた両者の演奏は、「老い」とは無縁であると思わせるばかりか「不老不死感」すら漂っていた(ちなみに郷は67歳、鈴木雅之は66歳だ)。強烈なオーラを放っていたと言える。

 郷が参加したSEKAI NO OWARIの「Habit」は、TikTokで広がったダンスで『紅白』を楽しませた。今回の『紅白』は、「SNSでどれだけ流行したか」「MVの視聴回数がいかに膨大か」など、若いミュージシャンたちの数字的なすごさが謳われたが、SEKAI NO OWARIの「Habit」はその賑わいを視覚的に表現かのように、郷ひろみ、JO1、SixTONES、NiziU、乃木坂46らが一緒になって同曲の振付を踊った。音楽とは曲を購入してじっくり聴くだけではなく、リスナーも踊ったり、歌ったりするところをSNSに投稿するまでが「現在の音楽の楽しみ方」であることを、上の世代に伝えているようだった。そしてそれは、古くからのカラオケ文化とはまた異なるものでもある。

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