『京都音楽博覧会』、3年ぶりに有観客開催された充実の1日 槇原敬之、SHISHAMO……各アクトから垣間見えた“くるりの特別さ”

くるり主催『京都音楽博覧会2022』レポート

 2022年10月9日、京都駅から徒歩15分の梅小路公園にて、くるり主催のフェス『京都音楽博覧会2022 in 梅小路公園』が開催された。コロナ禍により、2020年と2021年は観客を入れずにライブを収録して配信する形で行われたので、有観客での開催は3年ぶりとなる。

 かつ、これまでは9月20日前後の3連休のうち1日での開催だったのが、今年は10月の3連休の中の1日に変わった。暑さの問題や、台風などの悪天候にぶつかる可能性を下げるため、以前から日程の変更を検討していて、今回実現したという。『京都音博』は、2007年の第1回目は豪雨で一時中断。2016年の第10回目は、豪雨でトリの「くるり×ウィーン・アンバサーデ・オーケストラ」のステージを残して途中終了の憂き目に遭っており、その直後、急きょLINE LIVEで演奏が配信され、それをスマホで京都の地下道で観たのを覚えている。

 今年は、マカロニえんぴつ、Vaundy、Antonio Loureiro & Rafael Martini、SHISHAMO、槇原敬之、くるりの6組が出演。台風ではなかったものの、今年も天候には恵まれず、2番手のVaundyのスタート直前から雨が降り始め、終演時刻を過ぎても止まなかった。しかし、満員のオーディエンスのほとんどが途中で帰らず、雨に打たれながら、最後までフェスを楽しんでいた。

くるり京都音博ライブ評(写真=井上嘉和)

 2019年までは、客席エリアの前半分がスタンディングエリア、後ろ半分がシートエリアだったが、今年はスタンディングエリアを狭くしてアクトごとの入替制となった(希望者はスマホで申し込む抽選制)。また、入場者全員に「音博シート」を配り、シートエリアの利用はそれを敷いた場合に限るという、新型コロナ感染予防対策のための会場オペレーションに変更された。どちらも、今年の春から秋にかけて、各地のフェスで取り入れられた方法である。

 FM COCOLOのDJ、野村雅夫が前説を務め、岸田繁と佐藤征史を呼び込んで開催宣言。京都の「男前豆腐店」の前掛けを締めた岸田は、去年と一昨年のオンライン開催について触れた後、「今年は梅小路に帰って来ることができました。ただいま!」と挨拶。佐藤は「あとの方に出ていただくアーティストのみなさんも、もう来てくれてるんですよ。はじめから観たいって」と、喜びの言葉を口にした。

 まず、〈僕の身体は余りにも小さすぎて〉と歌うところから、トップバッターのマカロニえんぴつが始まった。くるり「尼崎の魚」を、サビ始まり→そのまま後奏にアレンジしたカバーである。1stシングル『東京』のカップリング曲であり、オリジナルアルバムには収録されていないがファンの間では根強い人気のある曲だ。

マカえん京都音博ライブ評(写真=井上嘉和)

 「レモンパイ」「MAR-Z」「洗濯機と君とラヂオ」を歌い終えたはっとり(Vo/Gt)曰く、くるりは憧れの存在で、音楽を作る身としてはいろんな教科書にもなっていて影響が大きい、ずっといちリスナーだったので感慨無量である、とのこと。「大好きなくるりが巡り合わせてくれた、この出会いに感謝しています」というMCに続いて、ラストに歌われた「なんでもないよ、」では会場に大きなハンドクラップが広がった。

マカえん京都音博ライブ評(写真=井上嘉和)
マカロニえんぴつ

 「2022年で一番歌うまい人やと思ってます」(岸田)、「自分の子、小6なんですけどちゃんとファンなんですよ」(佐藤)という紹介から始まった2アクト目はVaundy。「不可幸力」「踊り子」「恋風邪にのせて」「mabataki」と、キャリアの短さと不釣り合いなほどたくさんの“ファンじゃなくても知っている”レベルの代表曲が、次々と披露されていく。彼のレギュラーバンドのドラマーは、かつてくるりのサポートを務め、この『京都音博』の会場案内映像のレポーターをやったこともあるBOBOである。

 「僕が音楽を作る時に聴いたりして、参考にしていたバンドにこうやって呼んでいただけるのはすごく嬉しいです」と喜びを伝えたVaundy。その後も「裸の勇者」「東京フラッシュ」「花占い」「怪獣の花唄」とヒット曲ラッシュ。強まる一方の雨に負けないパフォーマンスで、オーディエンスを魅了した。

Vaundy京都音博ライブ評(写真=井上嘉和)
Vaundy

Vaundy京都音博ライブ評(写真=井上嘉和)

 次は今年唯一の海外アクトである、ブラジル出身のAntonio Loureiro & Rafael Martini。「それぞれ2回目の出演ということになるんですよね」「Antonioは、くるりと一緒に曲を作ってもらったりしました。2021年6月2日にリリースした「Humano (feat. Antonio Loureiro)」と、佐藤と岸田が紹介する。

AMRS京都音博ライブ評(写真=井上嘉和)
Antonio Loureiro & Rafael Martini

 機材トラブルがあったようで、登場後もしばらくスタートできなかったが、「Universo」で演奏が始まるや、その音が梅小路公園の空気を変える。2人とも歌い、2人とも鍵盤を弾くだけでなく、Antonioはドラムセットのライドシンバルを右手で叩きながら左手で鍵盤を弾くなど、自在の極みのようなステージングで6曲を聴かせた。しっかり歌ものでありながら、曲が次の瞬間どう変化してどう進んでいくのかわからない、とてもマジカルな時間だった。

 演奏前に「すごい人とすごい人がすごい音楽をやったら、こんなにすごいのか。掛け算すげえ」と言った岸田、終わってからのひと言は「とんでもなかったですね」だった。

 岸田が「天才でしょ」という4つ目のアクト SHISHAMOは、くるり「THANK YOU MY GIRL」のカバーでスタート。ぴったり20年前のアルバム『THE WORLD IS MINE』の収録曲である。マカロニえんぴつといい、SHISHAMOといい、「ベタなことはしない」「でも狙いすぎない」選曲センスである。この曲と、宮崎朝子(Vo/Gt)が鍵盤を弾きながら始まった「君の目も鼻も口も顎も眉も寝ても覚めても超素敵!!!」の2曲を終えると、「緊張したあー!」「はあー、緊張したねえ!」と言い合う3人。

 「夏の恋人」「ハッピーエンド」という、2種類の“夏の恋の終わり方”を描いた2曲と、“恋が終わった後”を描いた「夢で逢う」を並べた中盤ブロックを経て、後半は「狙うは君のど真ん中」「明日も」「明日はない」の三連打。「明日も」と「明日はない」をセットにしてプレイするSHISHAMOを観たのは初めてではないが、この日の締めにこれを持ってきたのは重要だったと思う。初めてSHISHAMOを観た人たちにも刺さっている感覚があった。

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