AA=、激動の世の中を反映させた新たなストーリー 苦悩と闘争を打破するためにライブで表現した“『Suite #19』の先”

AA=、激動を反映させた“新たなストーリー”

 『AA= (re:Run)story of Suite #19』とは、タイトル通り、AA=が昨年12月に発表したコンセプチュアルアルバム『story of Suite #19』の全曲再現ライブの再演を中心としたギグである。初演は今年2月に行われたレコ発ライブ『LIVE from story of Suite #19』だったが、終わったあと上田剛士は手探り状態の演奏だったことを明かし、できればもう一度やりたい、といった発言をしていた。それが7カ月後である9月18日に実現したわけだ。

 しかしその7カ月の間に、状況は大きく変わった。コロナ禍で根こそぎ変わってしまった世界を「雪に閉ざされた長くつらい冬」として描き、その混沌とそこに住む私たちの「豚のように太った孤独」を浮き彫りにした『story of Suite #19』は、まさに2021年という時代を映し出すリアルなものだったが、2022年9月の今、人々の生活はすっかり元に戻りつつあるように見える。ライブもフェスもかつてのように行われ、飲食店も通常どおり営業している。海外旅行も解禁され、人々の話題にコロナが上ることも少なくなった。マスクはまだ必須だし、ライブで歓声を上げることもまだはばかられるが、表面的にはコロナ禍以前の日常が戻ったようでもある。そんな状況で改めて鳴らされる『story of Suite #19』は、果たしてどう聞こえるのか。

 前回と同じく、前半は『story of Suite #19』の再現ライブで進行する。背面のスクリーンにアルバムジャケットやMVで使われたshichigoro-shingoのイラストをモチーフにした映像と歌詞が映し出され、静謐で内省的で思索的な世界が鳴らされる。演奏は前回よりも整理され、静と動のメリハリが強調され、よりドラマティックで起伏に富んだ物語が紡がれる。彼らの演奏力の高さと、上田のストーリーテラーとしての表現力の高さと構成力の確かさがうかがえる。

 アルバムの終曲「SPRING HAS COME、取っ手のない扉が見る夢、またはその逆の世界」で、タイトル通り春の訪れのような暖かいコードが児島実(Gt)によって鳴らされ、〈トビラ開いた/これで良いんだ/少しづつ日々を取り戻していくんだ〉と歌われる。そうして私たちは平凡だがかけがえのない日常を取り戻したのだ、めでたしめでたし……。

 だがAA=が、上田剛士が、そんな小市民的な一件落着で良しとするはずがない。前回は、この次に自分たちと観客の連帯を確認し〈立ち上がれるさ/そうさ You  can go that again〉 と熱く歌う「PICK UP THE PIECES」が爆音でぶちかまされて、コロナ禍の自粛ムードのストレスを吹き飛ばすような怒濤のピークタイムに突入していったが、今回演奏されたのは「SAW」だった。〈オレたちの闘争はまだ続く/オレたちの喧騒は果てしなく〉と煽り立てるアジテーション。そしてスクリーンに映し出された言葉が強烈だった。我々が平凡で退屈な「終わりなき日常」を過ごす間に、退屈とはほど遠い殺戮に晒されている人々がいる、と。詳細は忘れたがそんな言葉だ。終わりなき日常に埋没しつつある怠惰な我々に突きつけられた現実の脅威、言葉の刃、継続する闘争宣言。間髪なく鳴らされる「WARWARWAR」の切れ味はどうだ。

 覚えている人も多いだろうが、2月の『LIVE from story of Suite #19』のわずか2日前にロシア軍によるウクライナ侵攻が起こった。いてもたってもいられなかった上田は、すでに決まっていたセットリストに急遽「PEACE!!!」を組み込んだという。それは十分すぎるほど上田の意思を伝えるものだったが、恐ろしいことに本件は、7カ月以上たった今も現在進行形なのだ。その間「平凡だがかけがえのない日常」をむさぼってきた我々に突きつけられた現実。世界はまだこんなにも苦難と困難に満ちている。「BPMaster」「PEOPLE KILL PEOPLE」と叩きつけられる、厳しい言葉と妥協のないビート。春はまだまだ遠い。未だ長くつらい冬のさなかにいる人たちがいる。そして〈俺は宣言する。/このねじれた世界に抵抗する!〉〈君の未来をどうしても守る。〉と力強く宣する「Peace!!!」が歌われ、最後にスクリーンにはこの言葉が映されたのだった。

「Stand with Ukraine」

 上田剛士は、映像作品『LIVE from story of Suite #19』のライナーノーツのインタビューで「自分が表現者みたいな立場であるとしたら、そういう外的な影響を自分が受けた時に、それに対する何かしらの自分の反応みたいなものはカタチにしたいし、するべきだと思っている」と述べている。音楽は現実逃避の有効な手段のひとつだが、一方でそれだけに終わってはいけないと上田は考えているのだろう。だからこそ、その表現は時代の激動を映し出すのみならず、そこからさらに一歩踏み込んだ直截なメッセージを発せずにはいられなかったのである。『story of Suite #19』が内省的で思索的な作品であるだけに、このメッセージは強烈だった。そうすることで、コロナ禍だからこそ生まれた「Suite #19の物語」は、かつてない苦難と困難に直面した人々がいかに状況を打ち破っていくか、という物語に読み替えられるのである。

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